ショートショート:ともだち

@posimargaret

ネガティブマン

最近、私はこの世に未練タラタラの幽霊が成仏していく様子を日々見守っています。


幽霊は気まぐれに私の元へやってきては、この世への未練を延々としゃべっていくのです。7日連続でやってくることもあれば、2日おき、3日おきにやってくることもあります。時にそれは深夜であったり、早朝であったりして、眠いが故にうんざりすることもあるのですが、これが幽霊と話す最後なのではないかなどと思うと眠さなんてどうでも良くなってしまうのです。早く成仏してくれればいいのになと思いながらも、話を聞けなくなるのを考えると少し寂しいような気もします。きっと長く付き合っているうちに情が芽生えたんでしょう。


幽霊が話す時、毎回決まってこの世への未練の話から始まります。とても辛そうに悲しそうに話すのです。もちろん幽霊とは他愛もない会話をして、笑い合うこともあります。でもそこに生きていた頃の話は一歳ありません。察するに生きていた頃の記憶は未練に関連するもの以外残っていないのでしょう。だからこそ、どんなに辛かろうと悲しかろうと未練を話すのでしょう。唯一残った大切な記憶だから。

幽霊の未練は晴らすのにある程度時間を要しますが、もうとっくに必要な時間は過ぎているようにも思います。幽霊次第で今すぐにでも成仏できるようにも見えます。なんだかんだこの今の状態も嫌いじゃないのかもしれません。人間に構ってもらえるのですから。成仏した後が孤独ではないとも限らないわけですし、私と同じように何かとのつながりが安定的にある今は居心地が良いのかもしれません。本当のことは幽霊のみぞ知るわけで、きっと私がこの先幽霊に問うこともないでしょう。


この幽霊、何かにつけてはすぐに、「もう無理だ。」「終わった。」などマイナスなことを言います。もう死んでいる時点で無理で終わっていると言うのに。気に入らないことが起これば、ないしつまらない記憶を引っ張り出しては、とてもへこみ「あー」とか「うー」とかゾンビのような声やため息をしばらくずっと私の耳元に吹き込んでくるのです。一度、嫌がらせのつもりかと怒ったことがありました。違うんだそうです。特に意味はないらしいです。どんなにネガティブな言葉を言っても、ため息をついても、嫌な状況は無かったことにはならないのに。幽霊もわかっていない訳ではないでしょう。毎日おんなじことを繰り返していたら、飽きがきそうなものなのに、この幽霊は飽きる気配もなく、日々ネガティブな感情をリピートするのです。


私からすると、今の状況はとても窮屈そうなので早く成仏すればいいのにとやっぱり思ってしまいます。話せるのは嬉しいけれど、辛そうなままでいられるのは嫌なのです。ただ、楽しい話だけがしたいのです。私の望みはいつか幽霊が未練を晴らして、生まれ変わった時にまたフラっと私の元へきて今度は楽しい話だけを聞くことなのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショート:ともだち @posimargaret

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ