第12話 長いスピーチ(前)
俺は数秒沈黙し
あたりをじっくりと見た
その間で
静まり返った会場に・・・話を始めた
「先ほど
紹介いただきました
斎藤 律です
僕は、かつて新郎の親友でした
そして
新婦の・・・元カレです!」
その瞬間
会場全体が揺れた
蒼汰は俺をじっと見ていて
久実は下を向いている
「今日、ここに来たのは
彼らからこの結婚式の招待状をいただきまして
今、少々ざわついていますが
皆様
僕は“招かれざる客ではない”
と言う事だけはご了承ください」
そう言って
近くで待機する黒服たちそして
かつての友人たちを見まわし
また
俺は話を始めた
「二人とは
もう10年近く会えていないので
最近の事は分かりません
今日、ここでは昔の話をします」
俺がそう言うと
妙な
緊張感が会場内に広がる
「新郎の蒼汰と僕は中学で知り合い
高校三年の夏まで大親友でした
蒼汰は頭が良くて
スポーツできて
背が高くて
格好のいいモテ男でした
僕が知る限り
10人以上の女子から告白されていました
でも
一度も受けることは無かった
“こいつ
もしかして・・・俺の事が好きなのかも?”
と疑った時期もありましたが
“爽やかだしキスくらいならいいかな~”
なんて
例えそうだとしても
僕は嬉しいと思っていました
それは
僕が変態だったわけではなく
それほど
蒼汰の事を
男としての魅力も認めてたし
友達としていられることが自慢でもありました
・・・大好きでした・・・
僕はいつも格好のいい蒼汰の横にいて
“いいな~”
と、指をくわえ
ヨダレを垂らしていました
僕は中肉中背
特に賢いわけでもなく
蒼汰と親友してて
皆も思ってただろうけど
彼とは結構な格差がありました
自慢ではあったけど
それは大きなもので・・・拗ねた目で見てしまう日も無かったとは言えません
その度に蒼汰は
僕をからかうように
「お前ってそういう所が可愛いよな~
そういう所に気が付く女子がいたらいいのにな」
なんて
上から物申していました
僕はそれを言われても
悔しくはありませんでした
一つ心当たりがあったからです
あの頃の僕にも唯一
蒼汰に勝てる要素があったんです
その勝てる要素というのは
新婦の久実さんでした
久実さんと僕は
中学の時に通っていた塾で知り合い
成績も同じくらいだったので
いつも隣の席で・・・
すぐに仲良くなりました
久実さんはとても明るくて優しくて
少しワガママな気の強さを持ち得ていましたが
魅力的が勝っていたので
人気者でした
いつも彼女のまわりには友達で一杯で
休み時間にはみんなが寄ってくるような存在で
ちょっと
蒼汰に似てました
久実さんは
キラキラしていたから
単純な僕は直ぐに好きになって・・・僕は彼女に恋をしました
初恋でした
見ているだけで満足というか・・・
ただ、好きでした
でも
同じ塾の生徒たちも
けっこういたと思います
久実さんの事を好きな奴が・・・
大学生のバイト先生だって
久実さんの事を気に入ってる気さえしていたから
ライバルが多すぎて
自分なんか・・・隣の席で仲良くできているだけで
十分だって思っていました
だけど
高校は別の高校を選んでいたことを知っていたので
中学を卒業して
“塾も終わると会えなくなるな~”と淋しく思っていたころ
久実さんからノートをちぎった小さな紙で告白されました
“今日で塾で会えるの最後かもね
だから
告白します
律くんに彼女がいないなら
私の事、彼女にしてください”
って、ビックリしました
皆さん
好きな人に
それも、ひそかに好きな人に
“好き”
って、言われたことありますか?
心臓がはじけ飛んで
宇宙に行ってしまうかと思うほどに
嬉しくて
嬉しくて
幸せで
心が温かくなりました
勿論
即答しました
“俺も大好きです”
って
そこから
俺たちは恋人同士になりました
あの日
家に帰って
速攻、蒼汰に電話したよな」
そう言って
蒼汰の顔を見ると
申し訳なさそうに
でも、しっかりこちらを見て
頷いた
「覚えてるかな?
そしたら蒼汰・・・メッチャ喜んでくれて
俺なんかよりワイワイなっちゃって
夜だから
お母さんから
「うるさい!!」
って怒られてたよな?
それから
僕と久実さんは
お互いに部活やそれぞれの学校生活に忙しかったので
週に一度
土曜か日曜に
コンビニでお茶とお弁当を買って
お気に入りの公園で一日を過ごすというデートをしていました
雨が降る日は会えなくて・・・そんな日は
それぞれの部屋から1日中メールしてたよね・・・
好きだった
知っていくうちに
それまで知らなかった部分が見えるたびに
好きになった
拗ねやすいところとか
けっこうバカらしいやきもちとか
急に怒り出したと思ったら
笑いだしたり
忙しい性格が
楽しかった
それに
一番、僕の中で久実さんへの気持ちが増したのは
壊れそうなくらい繊細でもろく崩れてしまいそうな
弱い心を見せられた時でした
ま、それは
あの頃の久実さんと僕だけの秘密の話なので
言いませんけどね・・・蒼汰にも」
そう言うと
蒼汰は頷きながらこちらを見る
俺はそれに対し
ニッコリ笑って
話を進める
「“絶対に僕が・・・久実さんを守っていこう”
って、思った
あの頃
上手く言葉にはできなかったけど
だから
ろくな言葉なんてかけてあげられなかったけど・・・
その久実さんへの思いは
はじめて覚えた
真実の愛情でした」
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