第13話 長いスピーチ(中)

「高1の正月

初詣に行こうって約束した

同時期に蒼汰からも誘われていたから

僕は丁度いいって思いました


親友に彼女を紹介しようって・・・思った

蒼汰にも自慢したかったのかな・・・久実さんの事を・・・


それまでも

片思いの時から

ずっと話を聞いてもらっていたから

付き合いだした頃も


“親友として挨拶しときたいから会わせろよ!!”


って、言われていたから

その日、三人で行こうって約束した


そしたら

久実さんは気を使って


「自分の友達も連れていくね」


って言って

ま、古臭い言い方をすると

wデートの様な感じで会うことになった


駅で待ち合わせをして

合流して

蒼汰は久実さんに僕の親友として挨拶してくれたよね・・・


でも

そこで

思いがけない事が起こった


久実さんは

蒼汰は・・・

同じ目で同じ呼吸でお互いを見ているのに気が付いてしまった


何かを打ち消す様に

二人は目が合う度に逸らしたり

していたけど

その空気感は独特なもので


人が

一目で恋に落ちていく場面をみせつけられているようだった


二人の

今までにない表情でお互いを見てた僕は

それを割くように話をし続けていたけど

二人には・・・あまり入っていけなかった

一人からまわり

それを

久実さんのお友達も気が付いていたのかな?

一生懸命に相槌うって

笑ってくれたりしてくれて


今思えば

誰と誰のデートか?わかんない状況だった気がします


その一日中

二人はずっとそんな感じだったよね」


そう言って

二人を見ると

蒼汰は無表情でこちらを見ているけど

久実はこちらをまだ見れないでいた


「あの初詣に来てくれた久実さんのお友達も

今日来てるのかな?


来てるなら改めて・・・


「あの日は有難う

おかげで・・・助かりました

君の相槌なかったら

僕は・・・もっと辛かったから・・・助かりました」


あれから

色々と勘ぐってしまったりしたけど

全部、強引に打ち消して

見て見ぬふりしてた

バカらしいけど

信じたくなかったんだ

僕の大好きな久実さんに

僕の大親友が恋するなんてある訳ない

僕の事を“好き”だと言ってくれた久実さんが

僕にだけ心の内を話してくれた久実さんが

僕の親友に恋するわけがない


たった

一度しか会ってもいないのに


だから

分からないふりがしたかった

ありえない事だから

信じたくなかったんだ


でも

あの日

蒼汰・・・恋したんだよね

久実さんも・・・

あの日あの時一瞬で・・・二人は恋に落ちた


それ以降

思い返したら

俺は蒼汰に久実さんの話をしても心此処にあらず

それ以外の時には

いつもと全く変わりなく過ごしていたから

きっと

久実さんと僕の、のろけのようなものが聞きたくなかったんだろうね

蒼汰の嫉妬の様な顔

はじめて見て

本気だって思った・・・

いや違うか・・・あの表情は嫉妬ではなかったかもしれない

蒼汰は大人だから・・・自分たちの気持ちが後ろめたかったからかな?


それは

今となっては僕の妄想でしかなく

本人にしか分からない事だから

どちらでもないのかもしれないけど


まあ違えなく言えるのは

二人は既に始まっていたんだよね


そうだろ?蒼汰!


あの頃から

久実さんも会えない日が多くなって

メールも返信遅くなったり・・・


信じたかった

でもできなくなっていった


だって

大親友と彼女の様子が同時におかしいんだもん


だけど

僕さ・・・蒼汰がマジで好きだったし

久実さんの事も好きだったからさ


信じようって思ってた


“これは、たまたまだ”って


たまたま

蒼汰の様子がおかしくて

たまたま

久実さんが忙しくなって

それで

僕が勝手に嫉妬してて

勘ぐっちゃって

僕は蒼汰ほど男らしく誠実じゃないから

変な方向に感じちゃってるんだって・・・


でも

高3の6月

現実を突きつけられた


メッチャ雨降ってたよな・・・あの日


蒼汰の家に呼ばれていったら

久実さんもいて


二人が・・・申し訳なさそうな顔してて


ま、僕みたいなバカ者でも

そこまで来たら目は逸らしようはなかった


そっから

蒼汰が色々と話してたけど

正直

覚えてない

聞こえてなかった


耳鳴り酷くてさ


久実さんは

ずっと蒼汰の横で泣いてたよね


でもさ

泣きたかったのは僕なんだけどね


それからしばらくは音のない世界だった


でも一つだけ

聞こえた

どんな言い回しだったかは忘れちゃったけど

二人はほぼ毎日

蒼汰の部屋で会っていて

密かに恋を・・・愛を・・・育んでいたって知って

音は消えた

映像だけは今も頭にあるから

実は

今もたまに夢に出てくる


勿論、起きた時には汗びっしょりの悪夢としてね


あの頃

とてつもなく落ちてしまい


あれから

僕は、それまでの全部を捨てて

県外へ行きました


逃げました

現実から


ちょっと笑えますよね

失恋からの逃亡なんて

でも

必死でした

自分自身で消してしまいそうな自分を

その心の置き所を探すのには

逃げるしかなかった


通信の高校を出て

大学へ行って

就職して


二人の事どころか

地元の事なんかまったく思い出したくない思いでしかなくて


はっきり言って

しばらくは黒歴史でした


消せる消しゴムがあるのなら

いくら出しても欲しいくらいの・・・


だから

大学以降の人間関係しかなくて


親からたまに

同窓会の事とか

蒼汰から手紙が来ているとか

色々聞いてはいたけど

全無視


そうやって

生きてきました


そうしなきゃ

失ってしまったものの大きさから

目を逸らせなかった

ちゃんと

逃げられなかった」

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