第10話 朝が来た

翌朝

早くに目が覚めた


カーテンは閉まっているのに

かすかにあいた隙間から

全力で天気がいい事が分かった


今、何時何だろう?


時計を見た


6時半


今頃、二人は式場へ向かってるんだろうな・・・


新婦の支度は早いから

それに合わせて

奴も一緒に・・・


奇麗だろうな久実


そう思った瞬間

スイッチが入った


俺は急いでシャワーを浴び

身支度をする


壁にかけていたスーツに手を通す


鏡の前で髪型をセットする

内ポケットに招待状を入れる


最低限

不審者扱いされないように最善を尽くす


そして

タクシーに乗り

式場へ向かった


「ちょっとコンビニに寄ってください」


運転手さんに声をかけ

コンビニに寄る


トイレに入りようをたす

手を洗いながら鏡に映る自分を見る



“律!これでいいのか?

後悔はないか?”


最後に自分に問う


・・・


・・・


・・・


数分後、答えが出た


“間違えではない

これでいい

これしかない”


そう心で叫ぶように大きく深呼吸し

また

タクシーに戻る


「お待たせしました

では、お願いします」


車は式場へ走り始めた

もう

迷いはなかった


30分後


俺は呼ばれてもいない結婚式会場へ入る


早すぎるから

まだ、列席者は来ていない


式場のクロークに行って

話をする


「実は新郎新婦の友人なんですが

今日は列席できるか分からなかったので欠席していたんですが

どうしてもお祝いしたいので

サプライズでスピーチをしたいのですが」


すると

担当プランナーが来た


「お二人ともに“秘密で・・・”でございますか?」


「はい」


「・・・」


プランナーは少し不安があるのか?躊躇う

しかし

俺が招待状を見せると


「ちゃんと二人から呼ばれてるんです

不審者ではないです

安心してください

どちらかというと

新郎とは中・高ずっと仲良くて親友でした

新婦とも面識があるので

絶対にお祝いはしたいと思っていて

でも仕事でなかなか都合が付かなかったんです

でも、数時間だけ時間が出来たので・・・お願いします

来れると思っていなかった俺がスピーチしたら

二人ともビックリするし

喜ぶと思います」


そう言うと

プランナーは納得し


「お色直しは白ドレスからカクテルドレスの一回です

お二人が座るとすぐに

会場が暗いままスライド上映になります

その前にそっと入っていただいて

お客様がマイク前に立った時

照明で照らし

司会者から紹介

そしてスピーチを始めていただく

と、いう流れで如何でしょうか?」


割とノリノリでタイミングを作ってくれた


“この人、大丈夫か?

よくも知らない

たった今ここで知り合った俺なんかの提案に

速攻、乗ってきて

俺・・・招待状はもってるけど

二人にとっては爆弾だぞ?“


かなり簡単に入り込めたことが驚きだった

もう少し

苦戦するって思ってたから

でも、俺にとっては簡単に良い方向へ進み


“ヘッヘッヘッ”


と、子供が妙な隠し事を大人に隠しきれた時の様に

自慢気に妙な笑いを心の奥で我慢した


「そこまではサプライズなので別室で待機になりますが

その後

お席を作りましょうか?」


プランナーがやけに嬉しそうにそういうけど


「いや

その後、予定がありますので

サプライズのお祝いメッセージだけ

本人に伝えたいので

席とかは大丈夫です」


すると

ニッコリ笑って


「承知しました

ワクワクしますね」


そう言って

会場横の小さな待合室の様な場所に通された


ドキドキしていた

プランナーに頼んでもらった

その日の列席者リスト


半分くらいは知ってるやつだった


下手したら

抑え込まれて会場から連れ出されるな~

そうならない事は

祈るしかないな・・・


披露宴の進行状況を見ると


新郎側上司の挨拶

新婦側上司の挨拶


新郎先輩による乾杯


新婦お色直し退場

介添え 祖母


新郎お色直し

介添え 兄


15分後

お色直し入場


そこからだ

俺の出番


こうして

進行を文字で見ていると

ドキドキしてくる


最近は

緊張なんてほとんどしてなかった

わ~緊張する


プランナーはちょいちょいこの部屋に来て

ニッコリ笑って

ウキウキしているように見えた

その度に

俺は

会釈しながら

苦笑いをした


「お二人の喜ぶお顔が楽しみですね」


何度もその言葉を言う


“ロボの様で間抜けに見えて心の奥で笑える”


“俺にその言葉しか出てこないなら

ちょいちょい来るんじゃねーよ“


って

意味なく

今日ここでしか関わる事のない

この女性に苛立つ

この人は

ただ、この結婚式を最高のものにしようと

仕事をしているだけなのに


まったく悪気のない

素敵なスマイルが

今の俺にはキツイのだと思う


だから声に出さない空笑い

俺って大人げないのかな?


この式場のスタッフは、俺・・・何話すか知ってんのか?

ま、いいけどさ

知るはずねーしな

だから

ここで

この待遇で待機してるんだからな・・・


時間は近付き

人の歩く音や

ザワザワとした声が聞こえていた


そして

結婚式をチャペルで終えた二人が迎賓し

披露宴の開場となる


もうすぐだ

もうすぐだ

壁にかけられている

大きな姿見で最後の確認


スーツ

シャツ

時計

髪型


まあまあイケてる

ちょっと顔色悪いけど・・・

俺の出番が近づいてきていた



しばらく待っていると

プランナーが迎えに来た


「斎藤さま

宜しいでしょうか?」


そういって

俺をバンケットの方へ誘導した

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