第8話 リセット

逃げ出して間もなかった頃の俺は卑屈で

二人とは

二人の交際を聞かされた日から会っていない

むこうだって

俺に簡単には近づけるわけない


共通の友人も連絡はしていない

色々と聞かれたくなかったし

憶測を確認されるようなえぐられ方をされそうで

怖かったから


だから

あの日

家を出る日

それまでに出会った人たちを切るように

スマホを解約した

それまでの全ての連絡先を捨ててしまった


何もかも嫌気がさしていたから


後悔はなかった


俺はあの日

スマホを変えることで

それまでの思い出や履歴をすべて

リセットしたんだ


そうすることで

俺の格好悪さを薄めることができる気がした



そうだ

そういえば

親が言うには

あれから何度か奴が家に来たらしい


たまたま俺は留守だったから

手紙を置いて帰ったらしい


5通くらいあったな・・・

5通も何かくんだよ!

そんなに書くことあるか?


受け取ったけど

中身は見ていない


だって怖え~よ~


何かいてるのかなんて

全く分からない

もう

あいつらの事で傷つくのはごめんだったんだ


言い訳かな?

いや、決意表明かな?

“俺の方が久実を愛してる”とか?


何にしろ

その頃の俺には受け止めきれないものではあった

でも

捨てることもできなかったから

今も実家にある


バカらしいけど

手紙書くなんて

奴らしくなくて

少し笑えるけど

ムカついていた


一生懸命・・・何かを書いたんだろうな


今も内容は知らねぇ



俺は通信制に編入してから

志望大学のある県外に引っ越して一人暮らしをしてるから

地元の事は全く知らね

その先の二人の事も知らね


同窓会の知らせがよく実家に届いていたらしいけど


「俺は卒業生じゃないし」


と笑うと

あっけらかんな返しに

母親もホッとした声で


「そっか

そうだよね

でも親切ね

ずっと誘ってくれたりして」


両親は

特に母は

今もきっとあの頃の引きこもった俺を理解できず

手さぐりで気遣っているようで

申し訳なく思う


今回の招待状も

きっと親から今の住所聞いたのだろう

だって

親はヤツと俺は親友だって今も思ってるだろうし

でも

気が付いたかな?

今も親友なら

住所・・・知らない訳ないって・・・

ま、気が付いても

色々と聞くタイプじゃないから

そんな事もふくめて心配はしてるんだろうな・・・


いつか

あの時の事

今の気持ち

色々と気を使わせている両親には

笑い話しにでもして話さないと

親不孝だなって

反省してる


・・・親にはまだ言えないな・・・

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