仏師方 その7
やがて、良円、仁啓、法垂の3人が、2人を探しに遣って来た。
「お2人ともこちらでしたか?」良円が、ホッとした顔付で話し掛けた。
「暗くなりましたので、そろそろお戻り下さいませ」
素空は、良円の勧めに応じて、小屋に向かって歩きだした。
明智は、目に涙の後を残していた。
「明智様、何事かあったのでしょうか?」良円が心配そうに尋ねた。
明智は、この夜は素直に話すことができると思った。
「私は今、御仏の降臨を見たのです。素空様の姿が
「明智様、それでは素空様が御仏だとおっしゃるのですか?」法垂が驚きの眼差しで問い掛けた。
「いいえ、私が、素空様の姿を借りた御仏を見たのです。私は、御仏の御慈悲で罪を赦されました。償いとしてあなた方を正しく導くよう素空様に勧められました」
良円は不審に思ったことを素直に口にした。
「では、素空様は
明智は、素空が去った方を向いて言った。
「あのお方は、御仏に愛されたお方です。私達が遠く及ばない、神聖なお方です」
そう言うと、小屋に向かって歩きだした。後に従う3人は、明智が次第に変わって行くのを目の当たりにして、戸惑いを感じていた。
その日の夜は、皆早々に寝込んでしまった。夜明けにはまだ早い早朝に、松石は用足しに外に出た。月明かりに
光は近いように見えて、かなり遠くで輝いていた。沢まで下りて身を
松石は、これ以上覗き見ることは
帰り道、素空のことを考えたが、松石には分からなかった。こんな時は、興仁大師に相談するしかなかった。松石は結論がでないと直感したことは、暫らくの間、そのことを忘れるようにしていた。
小屋に戻ると全員を確認したが、やはり、素空だけが居なかった。『素空様は、夜も寝ることなく、御仏に語り掛けておいでなのだろうか?』松石は、忘れようとしても、すぐに素空のことを思い浮かべた。
やがて、外が白み掛け、松石は眠れぬままに朝を迎えた。火が落ちて
「皆さん、
「皆さん、今日は、昨日にもまして大切な日になると思います。さあ、仁啓様に感謝して、しっかり食して、力を蓄えましょう」
栄雪が、仁啓に言った。「今日の具材は何ですか?」
「
すると、栄雪も行信もひどく残念がって見せ、一同に笑いが生まれた。この様子を見て、松石は、皆が更に打解けて、守護神が立派に完成するだろうと思った。
松石は、昨日の夕食の
朝食が終わると、出発の支度を始めた。
「今日は仁啓も一緒に行くのですよ。昼の弁当作りと、片付けは手伝いましょう」明智は、仁啓に思い遣りのある言葉を掛けた。
仁啓は、思わず明智を見た。こんなことは嘗てないことだった。
「仁啓、先ずは朝餉の片付けをしましょう。この鍋を先に洗わないことには弁当の飯炊きができませんね」そう言うと鍋を持って沢に下った。良円も、明智に倣って椀や箸を持って明智に続いた。仁啓は、日ごとに変わって行く明智に戸惑いながらも、その優しさに涙ぐんだ。
素空達は支度がすむと、明智、良円、仁啓を残し、昨日改めた小屋の吟味と、幾つかの小屋の検分をした後、卯之助の炭焼き小屋に遣って来た。中に入ると目を疑うほどの、それこそ宝の山だった。松石が思わず口走った。「何と、この小屋さえ手に入れば、他は見るべくもありませんね」小屋は極太の楠材をふんだんに使っていた。
素空は、小屋をひと通り吟味し終えると、皆に声を掛けた。
「皆様、ここは卯之助様の小屋です。相当多くの楠材がありましたので、後ほど里で払い下げの申しでをいたしたいと思います。
松石と法垂、行信と淡戒が五郎の小屋に向かい、素空と栄雪が縞蔵の小屋を改めることになった。縞蔵の小屋の良材は3本の柱だけだったので、吟味が終わるとすぐに志賀孝衛門の屋敷に向かった。栄雪は志賀孝衛門の屋敷までの道々、素空が更に大きな存在になったような気がした。近くて遠い存在が、今、目の前にあった。
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