回想と予見 その5
素空は
ジッと目を閉じて
初めて感じる霊の力に、経を唱えながら、その力のままに身を任せようとした。
次第に体が倒れ、背中が参道の上に着きそうになった時、素空は意識が遠くなって来た。初めての経験だったが、
体は動かなかったが、意識だけが別の世界を見ていた。
そこは、
やがて、意識が体に戻って来た時、暫らくして、素空は気を取り戻した。
素空はやがて
『人が魂で生きていることを、ハッキリ感じさせられた思いだ』素空はこれ以上深く考えることはなかった。天安寺での修行が始まる今、悲しき霊達の存在を知り得たことに感謝し、暫らく記憶のうちに留めておくことにした。
もう少し登ると
素空は塚まで戻ると、3つに割れた塚石をひとつづつ上に運んで、元の場所と思われるところに安置した。もう1度合掌してジッと目を閉じると、参道の地面から何やら異様な気配が沸き上がるような、初めての不思議な気分を感じた。素空はその気配の中に没頭するかのようにのめり込んだ。座禅とはまったく違った没入の仕方だった。
『この場所のせいだったのだろうか?』素空は暫らくして我に返って呟いた。
不思議なことに、これまで考えることも思い描くこともなかった悪鬼悪霊への思いや、霊の力と法力、慈悲と仏罰などが、急坂を転げ落ちるように駆け巡った。
素空の思いの中にあった金色の輝きがいつしか純白の光に替わって、豊かなもので満たされて行った。
『あの豊かなものは一体何だったのだろうか?』今の素空には思い及ばない世界だった。師から学んだすべての知識の外にあったのだ。素空は考えることをやめた。そして随分長い間、この
素空は天安寺を目前にして、何故こんな思いを持ったのだろうか?初めての経験に戸惑い、初めての経験のすべてを暫らく忘れることにした。それは、仏が時が来るまで開けないようにしたかのようだった。素空は天安寺での修行を終えると、その豊かなものを知ることになるが、それはまだずっと先のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます