回想と予見 その4
「林に入るのだ!」崎田小平はこれまでとは別人のような声音を発して、鋭い指示を与えた。間合いを取りながら、4人の武士を自分に引き付け、五助から離したところで浪人の1人に切り掛かった。
「旦那、
崎田小平に少しばかり余裕が生まれた。振り返ると、五助がゼイゼイ言いながら必死に木刀を振り回している。悶絶している5人の賊を
その後、残った浪人の右の親指を切り落として、最初の12人は片付けたが、まだ3人残っていた。
素空と崎田小平の間の3人が不意に近付くといきなり襲い掛かった。浪人の1人は崎田小平に、もう1人は五助に切り掛かった。さっきの4人の浪人とは明らかに腕が違った。五助の木刀は半分に落とされ、次は命を奪おうとジリジリ詰め寄った。
素空は
五助に詰め寄った浪人が剣を振り下ろした瞬間、剣は手から抜けて林の中の地面に刺さり、五助は救われた。浪人は崎田小平に肩口を峰打ちされ、気絶した。
「動くな!」
「頭目はお前か!」小柄を脚に受けた男が、不敵な笑いを見せてソッポを向いた。
「五助、すまないが
「金5両とは思いもよらない幸運だ」そう言いながら満面の笑みで五助のいる茶店に向かった。
「旦那、褒美の半分はおいらのもんじゃないでしょうかねぇ?」五助は、素空を見て同意を求め、崎田小平に1両でいいから分けてくれとせがんだ。
「お前が金を持つと何に使うか分からんから、これは拙者が預かっておこう。もともとお前があっての捕り物なのだ、お前が1人で届けでれば全部お前の物になっていたであろうよ。そうではないか?」崎田小平の言葉に素空がプッと噴きだし、少しして五助が口を尖らせて納得した。
「五助、金は天下の回りものと言うではないか。金銭に執着すると、ろくなことにはならないのさ」
素空は、崎田小平の顔を改めて見直した。
「崎田様は何故剣の修行を始めたのですか?」素空は少し立ち入ったことになるが、昨夜聞いた話より以前のことを訊いてみた。
拙者は親の代までは、さる大名家の
『このお方は何故、生か死かの
「御坊には分かるまいが、その一瞬に生きる喜びがあるのだよ。剣を
「崎田様の師匠はどなたでしょうか?」
「御坊は何でもお見通しなのだな」そう言って、愉快そうに笑って答えることはなかった。その日の夜も2人は酒を浴びるほど飲み、素空は夜半まで経を唱え続けた。
次の日の明け方、素空は2人に別れを告げると
「五助、少し寂しくなるな。拙者と2人仲良く参ろうか?…それにしても、お前はあのお坊様をどのように見たのだ?」素空の後姿を見ながら、崎田小平が目を細めて言った。
「さあねぇ、おいらは不信心で坊様の良し悪しは分からねえが、年の割に堂々として同年配のような貫禄がありましたねぇ」
「そうだ。あの御坊は普通じゃなかったな。何と言うか、仏のようなお方であったな。拙者も同様不信心だが人を見抜く眼力は持っているつもりなのだ。…確かに普通じゃなかったな…」崎田小平はしみじみと語った。
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