回想と予見 その3
次の日は素空だけが早く起きて、3体の検分を続けていた。夕べのことだが、素空が先に横になると、五助が「お坊さん、明日は一緒に発ちましょう」と言ったので、2人が起きるまで待つことにした。2人は1升徳利を空にして、ぐっすり眠っていて、まだ暫らく起きそうになかった。護摩壇は素空が目覚めてすぐに
辻堂に戻ると既に崎田小平は起き上がり、身支度を整えていた。素空が持って来た水をうまそうに飲むと、夕べの酒よりうまいと言って素空に笑い掛けた。
「ご気分が良さそうで安心しました」素空の言葉に今度は感謝の笑みを返した。
「五助!置いて行くぞ!さあ起きるのだ!」
「もう朝ですか?久々に大酒を飲みました」五助は
「五助様、大丈夫でしょうか?」素空が心配すると、五助は作り笑いをしながら、差し出された水を3杯飲んだ。
「五助は酒より水が良いのだな?」そう言うと、崎田小平は豪快に笑った。
「御坊、今日の泊りは
3人は津を目指して歩きだした。
「旦那、飯屋に入りましょう。ご機嫌斜めのようで怖くてしょうがねえや」五助が軽口を言うと、崎田が
ニコニコ顔で五助が走り去ると、崎田小平は、素空に話し掛けた。
「御坊には何の迷いもないのかね?その、なんだ、世俗の欲とか、
「崎田様、この世の生は仮のものにすぎないのです。信心のないお方にはお分かり頂けないことです。私の望みはこの世の生を御仏に
崎田小平は
「御坊、人が死んだら
「崎田様、人は魂で生きているのです。今も後の世も…魂は心と言っても良いでしょうが、これは確かな人格で、この世においての、この顔この手足のように、他とハッキリと区別できるものなのです。
崎田小平は暗い気分になった。悪事を成さず、善人を自負していたのだが、それすらも否定されたようなものだった。『御仏に倣いて生きる』…自分には到底できないことだと思った。
「あいつ等、
「御坊まで硬くなっては相手にバレるではないか。お前もいつも通りにしないと用心されるじゃないか。このまま知らぬ顔で街道まででるのだ」たしかに、崎田小平の言う通り、気付かない振りをして、
「店を出たら御坊は我らと離れて歩いてくれないか。巻き込まれたら困るからな。我らは膏薬と足袋を探しながら城下外れまでゆっくり歩いて行くから、御坊は随分離れて行くといいよ。賊の人数も分かるだろうからな。そこで、我らにどのようにして伝えてもらうかだが…」崎田小平は思案し始めた。
「ヘイお待ち!」亭主が飯を運んで来た。
「飯を食ってから考えよう。五助は考えながら食うんだぞ!」崎田小平はそう言うと愉快そうに笑った。
「御坊は少し離れて食ってくれないか。我らの仲間と思われたくないのだ。もう6人ほどに増えている。奴らの人数は分かるか?相手の人数が分からぬようでは、一難去っても安心できないからな」そう言うと人数の伝え方を打ち合わせた。
「
「五助、お前は
外を見ると更に数人の
「さあ、我らはでるとしようか。五助!」
崎田小平は入念な打ち合わせがすむと、3人分の飯代を払って先に出た。
慌ててすぐに五助も後を追った。どう見ても素空は仲間ではないと思ったのか、6人の
更に1町ほど遅れて素空が歩きだした。街外れの
素空は賊が15人だと打ち合わせの通り合図した。合図を送ると、すぐに
津を出て暫らくのところで
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