回想と予見 その2
「おいらは
崎田小平は五助に酒を勧めるとその先が知りたくなって色々と質問した。
「おいらは仲間とつるんで仕事をしたことがないんだ。1人稼ぎの
素空が五助の顔を覗くと、意外にも
「崎田さんのさっきの金も、ただのコソ泥だったら持ち逃げしたかも知れないが、おいらはそんなことはしねぇ。おいらにゃおいらの
少々自慢げに話す五助を眺めながら、素空は言葉なくただ見詰めるだけだった。
崎田小平は旅のあちこちにいる
3人は
「おいらは、ある
「半年前に
「ほほう、そなたは既に逃げ隠れする稼業なんじゃないのかね…」崎田小平はそう言うと腹を抱えて笑った。
「崎田の旦那、言ってくれるじゃないか!おいらは盗んだ後、半月は気付かれることがないほど
「五助様、何時かはお縄に掛かるのです。正しい道を歩むことこそ人の道なのです」素空の控え目な言葉は、五助の心にまったく響かなかった。
傍らで聞いていた崎田小平は、素空が五助にまっとうな人の道に戻ることを願っていることに気付いて『根は決して悪い奴ではないのだろうが…』五助を見詰めて心の中で呟いた。
「ところで、狢の何とかと言う盗賊はどんな奴なのかね?」崎田小平が話を戻して尋ねた。すると、五助が口にするのも嫌だ言う顔をして答えた。
「あいつらは正気じゃねぇ。人間の皮を被った
「あいつらは狙った押し込み先の金は根こそぎ持って行き、主人や奉公人は皆殺しにしてしまうんだが、おいらが先に入ったせいで押し込み先を失って恨まれたって訳さ。おいらの技を使って2つ3つ仕事をさせたところで殺す算段だと思って、逃げ回っているんだ」五助はしんみりと語った。
「五助、お前、わしと一緒に旅をしないか?そうすれば賊の一味が来てもわしが助けてやろう。それに、お前が盗みをせずにいいようにわしが稼ぎ口を作ってやろう」崎田小平は、五助にまっとうな生き方をさせることは、素空の希望に沿うことだと思った。そして、自分の道連れにはこんな人物が似合っているように思った。
「旦那、剣の修行はおひとりでなさるもんじゃないのかね。おいらがいちゃ修行の邪魔と言うもんじゃないかね?」
「いいや、1人では困ることもあるのさ。いつも
素空と、崎田小平は顔を見合わせて驚いた。
「五助、急にどういうことだ?肥後には何かあるのか?」
「いやね、旦那、おいらの爺様が
「ほほう、そうかい。それじゃ
話が決まり、二人は益々饒舌になり、素空が最初に感じた印象を見事に壊してしまった。酒のせいなのか、持ち前のものか、素空は明日になればハッキリするだろうと笑みを浮かべた。
素空は就寝前の経を唱えるため居住まいを正して
『この御坊は何者だろう?卓越した武芸者のような隙のない姿だ。私は今剣を持ってこの御坊に切り掛かることができぬほど隙がない』
五助も何やら不可解なものを感じていた。触れることのできない
2人が口の中で
2人は信心とは無縁の暮らしをしていたため、そのことを何かの
ただ、崎田小平は初めに素空が言ったことを思い返しながら、薬師如来像に仏の心を込めていないと言ったが、釈迦三尊像と同じように光ったようなおぼろげな記憶に囚われていた。崎田小平にとっては4体の仏像はまったく同じものでしかない、本物のような気がした。
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