泉 リョウコ教官
Side エリク・クロフォード
=朝・クロガネ学園・メンタルカウンセリング室=
精神の病は多くの人間の心を蝕んでいる。
軍事分野においてメンタルのカウンセリングは先進国の軍隊では真剣に取り組まれている。
普通の学校でも心のケアを行うメンタルカウンセリング室が置かれいる。
それ程までに心の病と言うのは身近に存在するのだ。
部屋にはソファーや様々な玩具が置かれていて空調が効いている。
そこで泉 リョウコ教官と対面していた。
カウンセリングの先生は今はおらず、教官が担当する形になった。
先程まではシュンとこの部屋で二人きりとなり、何やら話し込んでいた。
たぶん僕の過去をある程度話したとみて間違いないだろう。
「いい友達を持ったわね。矛盾してるけど、詳しい事は本人に聞いてください、だって」
「え?」
「驚いた? 人を大切に思える良い子なのね彼は。そう言う子とは大切にしなさい」
「は、はい」
とのこと。
正直これには驚いた。
シュンは自分の過去の事を話さず、教官に聞かないでおいて欲しいとお願いしたようだ。
彼は情に厚く、義理堅い性格らしい。
「だけど難しい注文をしてくれるわね。相手の深い事情を聞かず、探らずにメンタルケアをして欲しいなんて――」
と、教官は両目を瞑り深い溜息をつく。
その一言に僕は作り笑いで返すほか思いつかなかった。
例えて言うのならば患者の詳しい病状を知らずに病気を治せと言われてるようなものだ。
逆の立場なら教官のように悩んで愚痴の一つでも零していただろう。
「あの――僕は――その――」
「大丈夫って言うつもり? 大丈夫な子は夜中に大量に汗を掻いて悪夢にうなされるないから」
「お、おっしゃる通りです」
正論に返す言葉がなかった。
「だけど言いたい事は言わせてもらうわ」
そう言って、一呼吸を間を置き、こう続けた。
「昔はどうだったかは知らないけど、貴方はここでは私の大切な生徒なの。貴方が私の生徒で、学園の生徒でいるかぎり、手を貸すわ」
「泉教官――」
「同時に私を甘くみないで欲しいわ。これでもクロガネ学園で教鞭を執ってるのよ」
「は、はあ」
「まあ――先日のテロ事件で無様な姿を見せておいて説得力に欠けるけどね――」
と、苦笑いする。
教官は「それはさておき」と話を変えた。
「本音を言えば学園に君が持ち込んだバトルスーツの事、聞きたかったけどやめておくわね」
「それは――」
「見た限り最新鋭の戦闘用のバトルスーツ――ただの一個人が所有するにしては過ぎた代物だわ」
「……」
何も言えなかった。
遠回しにこの学園に戦争でもしに来たのかと言われているみたいである。
教官が言うバトルスーツを持ち込んだのは万が一のためと、仲間の勧めもあっての事である。
それに世界情勢が一時よりかはマシになったとは言え、先日のテロのような事件が周辺でも起きないとも言えないからだ。
平和の方が良いのに、平和を良しとしない人間は世の中には大勢いる。
だからあのバトルスーツを持ち込んだ。
「エリク君。真剣な目つきになってるわよ?」
「え? そんな顔してました?」
「してた。まるでまた学園でテロか何か起きるような表情をしていたわね」
「それは――」
「まあ今のご時世、妄想で済ませられないのが怖いところね。現に起きてしまったのだし」
教官は付け足すように「だけど」と言って、
「貴方はここでは学生なんだから。無茶は出来ないわよ。出来たとしてもガーディアンに推薦するぐらいかしらね」
そう念押しする。
「ガーディアン?」
「学園の自警団よ。教官の立場として本当は推奨したくないんだけど――その肩書きがあった方が色々と動き易いんじゃないかしら?」
「は、はあ……」
ガーディアンがどう言う組織か分からないので、安易に渡りに船と言わんばかりに飛びつく事はできなかった。
「本当は止めるべきなのかも知れないけど、貴方は普通の子とは違う。だからと言って、それで特別扱いして危険に放り込むのは間違っていると思う。けど、君は――何を言っても、また事件が近くで起きたら突っ走るんでしょ?」
何故かニッコリと笑みを浮かべて言われ、僕は「はははは……」と乾いた笑いを出すしか出来なかった。
「ならせめて教官の助けが入れる位置にいて欲しい。それが私のお願いよ」
「……ありがとうございます。教官」
「どういたしまして。それと今日はゆっくり休みなさい自主的なトレーニングも中止すること」
「はい」
「私が今言える事はこれだけ。最後に――新ためて言うわ。私やこの学園、私の教え子達を助けてくれてありがとう」
泉教官はそう言って微笑みかけてくれた。
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