となりは君に居て欲しい10

舞が小学生になり一ヶ月程経ち

俺はゲーム会社をやめて本格的に喫茶店を始めた

そんなある日その日は突然来てしまった。



「お客さん…前よりは増えたが…それでもこの中途半端な時間は暇だなぁ~…」



昼のピークを過ぎた時間はどうしても暇だ…

いっそこの時間は閉めてしまおうか?

そんなことを考えていると電話が鳴った



「はいはいっと…もしもし神川喫茶店です。」


「もしもし…私…◯◯病院の……と申します」


病院?…俺はちょっとエロいだけで健康だが…


「落ち着いて聞いてください…お宅の奥様が事故に遭いまして…」



「は?」


何て言った?事故?誰が?…奥様?

…奥様…姫?



「もしもし?…◯◯病院に搬送されましたので来ていただけますか?」



「わ、分かりました!」


俺は頭の中がパニックに成りながらも

店をきちんと閉め身支度をし病院へ向かった



そこには集中治療室で横になっている姫がいた。



「先生…妻は…」


「……大変厳しい状態です。外傷はさほどないのですが…打ち所が…」



「先生…何でもします…妻を…姫を助けてください」


「もちろん、最善は尽くします。」


先生はそれしか言えないと…そんな風な顔をして

こちらに頭を下げ病室を離れた


「…せめて…部屋に入って…手を握ってやりたい」


こんな大きな窓越しじゃ…君に…何も伝えてあげられない


俺は産まれて初めて…膝から崩れた

…アニメやドラマを見て…いやいや

ショックで崩れ落ちるって何だよと思っていたが

…なるほど…足に力が入らない…息が荒い

体温が下がるような感覚…身体が冷たい

涙が止まらない…感情がバグる…



「神様…どんな試練も耐えます…どうか姫を…助けてください。」


俺はしばらく踞ったあとご両親に連絡を取った

もちろん、家の母にも



すぐにご両親は来てくれて

色々聞かれた。

当たり前だ…別に攻められた訳じゃない

むしろ大丈夫だ!とすごく励ましてくれた。

ただ、買い物に…いつものように行っただけなんだ…

なのに…どうして?



「舞…」


俺はハッとし時間を見る

舞がとっくに帰っている時間だった

俺はご両親に一旦この場を任せて

一度家に帰った



「舞…舞!」


辺りは既に暗い

くそっ!何やってるんだ俺は!

今度から鍵をもたせなければ…!

あんな可愛い子をこんな暗がりに…ふざけるな!

神川 凛!



俺が急いで帰ると舞は玄関に座っていた。


「ま、舞!」


「おぉ~…遅かったねパパ…こんな可愛い女の子が誘拐されるところだったよ?」



「あ、あぁ…すまない」


「それにしても珍しいね?…ママも居ないの?」


「…舞、話がある」


「……分かったけどお家に入りたいわ…さぶい」


「あ、あぁごめんよ?」


俺は家の扉を開け

温かいお茶を入れた



「ありがとう…パパ…それでお話って?」


炬燵に入りお茶をすする舞は

問いかけてきた



「舞…実はな…ママが事故に遭ったんだ」


「…ママ…大丈夫なの?」


「…分からない…でもお医者さん凄く頑張ってくれてるから」



「……会える?」


「おっきな窓の向こうだけど会えるよ」


「……会いたい」


「そうだな。パパもこれから戻るから一緒に行こう」


「うん」


舞は可愛そうな位、感情を殺した

笑顔でこちらを見た…泣いても…いいんだと

心の奥から出掛けた言葉を一度飲み込み

舞と共に病院へ向かった



「…お義父さん…姫は?」


「相も変わらず…だ。」


「ママ…」


「大丈夫だ…舞」


俺は舞の頭を優しく撫でてやることしか

出来なかった。


その一週間後

姫は病室を移された

意識は戻らないままだが…

面会できるようにしてくれた…と考えるべきだろう



「おーい、ママ姫~お花変えるぞ?せっかく綺麗な花を選んだのに、一回も見ずに枯らすとは…まったく」



俺は毎日のように訪れ話し掛けた。

いつか返事が帰ってくると信じて



「ママ姫、今日は舞が初めての遠足に行ったぞ!…久しぶりに弁当作ったがなかなかめんどくさいな!」







「ママ姫!今日は舞がよく分からんものを図工で作ってきたぞ!粘土で棒と穴を作ってタイトル【生命】らしい…ある意味天才だが…パパりんは将来が少し心配だ!」







「ママ姫~舞は初夏休みだ!…ほら、ママに挨拶しな?」


「ママ~私、夏休みだけど一夏の過ち?はしないわ!」


「当たり前だ舞!お前まだ小学生だろ!?」





「ママ姫~舞の初運動会だ!…大縄跳びをしてたんだが感想が…『上級生は凄い揺れてた!』って…はは…どこを見ているわが娘って感じだ…ママ姫からも何か言ってやってくれ」





「ママ姫~舞は初めて紅葉狩りを経験したぞ?すまんな、ママ姫以外の皆で楽しんだぞ!…お寝坊さんなママ姫が悪いんだからな?……来年は皆で行くぞ?次、寝坊したらパパりん…怒るからな?」





「ママ姫…もうそろそろ起きないか?…ってかなママ姫…」


俺は横になって動かない姫の手を強く握り





「名前…呼ぶのやめた方が何でも言うこと聞くって言ったよな?…流石にこれだけ長い間呼んでないなら…君の敗けじゃないか?……だからさ…お願いするぞ?」




俺は自分でも無茶苦茶だと分かりながら

伝う涙と共に声を出す



「返事をしてくれよ姫ッ!!」







それから一週間後

姫は息を引き取った。

とても穏やかな顔だった


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