第14話 NATOの拡大批判


 今回のウクライナ問題が起きてから、クリントンのNATOの拡大についてアメリカでは専門筋の批判が再燃している。それについてクリントンは論考を米誌「アトランティック」に投稿し、その投稿が波紋を呼んでいる。「NATO拡大は平和に貢献し、正しかった」とした上で、「専門家の忠告を承知の上で、ロシアがアメリカにとって都合のよい国(民主国家のことだろう)にならなかったら、最初から戦争になっても仕方ないと考えていた」という文言の部分である。

 

 NATOの東方拡大は欧州よりアメリカでより議論され批判も多かったのである。冷戦終結をそれ程大切に考えたのだろう。当時の批判を列記してみる。


ニューヨーク・タイムズのトーマス・フリードマンは、「NATOの拡大はロシアにとって屈辱的に追い詰められたと感じるだろうし、ロシアが共産主義政権末期に陥った経済破綻から復活したときには、アメリカはとんでもない反動に直面するだろう」と、ニューヨークタイムズは一貫して反対した。

著名な外交家のジョージ・ケナンは、冷戦中の封じ込め政策を推進したが、ベルリンの壁とワルシャワ条約機構の崩壊でNATOもその役目を終えたと主張し、東方拡大はロシアの改革派には失望を、国粋派には反発の口実を与えるので「致命的な失敗になろう」と論じた。

これに賛同して、マクナマラ元国防長官を始めとする、外交・戦略問題で発言して来た元高官・専門家ら50名が「歴史的重みをもつ政策的過誤」と決めつける公開書簡を出した。

マイケル・マンデルバウム(ホプキンス大学教授)。

拡大を性急に進めると、政治的階層(極左・極右)と云うより、普通のロシア人が、欧州秩序全体を非道理なものとみなし、その転覆をロシア外交の目標とするだろう。と論じた。

ロシア通の政治学者のマイケル・マンデルバウムも、NATOを拡大しても民主主義や資本主義が促進されるわけでないと主張し、拡大が間違いだとしていた。


勿論、拡大賛成派も多かった。その一番はキッシンジャーであろう。

「ロシアの自由主義と民主主義を支持する一方、ロシアの拡大を防止する策も求めるべきだ」「家が実際に燃えだすまで火災保険に入るのを遅らせるのは賢明と云えない」


 確かに、同盟国同士の戦争はあり得ない、そういう意味では拡大は平和に貢献と云える。しかし冷戦が終わり、西側の一員になろうとしているロシアを「潜在的敵」と見做す軍事同盟の拡大は如何なものかと思う。勿論、東欧諸国が入りたいという気持ちは歴史的に十分わかる。

 NATOの拡大論ではないが、ある政治評論家は「プーチンの路線は、エリツィンの政府が、アメリカのアドバイスを聞きすぎて経済を通常の国境管理もできない星雲状態にしてしまった反動からやや極端な形で国家としての統一性を回復する過程で出てきたものだ」と論じたのは私も賛同する。ロシアが一番支援を(ソフト面でも資金面でも)欲していたときに、アメリカは無造作だったと指摘する経済学者が多い。

こういう色んな議論・批判が起きるところがアメリカの素晴らしい所だと思う。NATOの東方拡大、私の結論である。「ロシアも入れてまえ!」である。敵のない軍事同盟。それこそ平和でいいではないか?

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