第10話 大統領のプーチン


 エリツイン時代の混乱を収めたのはプーチンである。エリツイン末期、微かではあるが経済の底打ちから上昇局面が見られた。ロシアは資源国家である。石油、天然ガスは知られるところである。石炭、鉄やニッケルの鉱物資源も豊富である。経済の回復・成長は原油価格の上昇によるところが大きい。プーチンは幸運であった。しかしそれだけはなく、プーチン政権下でさまざまな経済改革が行われたことも挙げられる。税制改革は税負担の軽減により横行していた脱税を減少させ、国家財政再建に寄与した。また、これらの税制改革や土地売買の自由化など法制度の整備によって外国からの投資を呼び込み、ロシア経済を活性化させた。2005年に国際通貨基金(IMF)からの債務、2006年にパリクラブからの債務を完済し、ロシア経済は安定して国際的な信用を取り戻した。

 また、大統領府第一副長官時代の経験を生かして、地方政府の制御が利かなくなっていた現状を、地方知事の公選制をほぼ任命制に近い形に変え、「垂直統治機構」と呼ばれるシステムを確立し、中央集権を強化した。


 90年半ばぐらいからはエリツィン側近とオリガルヒの癒着時代であり、政治を左右・私物化する存在になっていた。こうした癒着は腐敗を生み、オリガルヒの納税回避は国家財政の危機の一因となっていた。プーチンはそこに手を入れた。


 その代表的なのがユーコス事件である。ホドルコフスキーは国有企業の民営化の過程で多数の企業を取得し、巨大な持株会社を形成した。ロシア石油大手ユーコス社長となったホドルコフスキーは脱税などの罪で逮捕、起訴された。オルガヒ達の脱税はホルドコスキーに限ったものではなかった。ホドルコフスキーがプーチン大統領への批判を公言し始め、ロシア連邦共産党を含む野党に対し献金を行っていたことが直接的な原因とされている。経営破綻に追い込まれ、解体により主な資産は競売を通じて国営石油ロスネフチに移った。

 これはオルガルヒ達への見せしめであった。プーチンはオルガルヒ達の政治への口出しを禁じ、納税義務など恭順を誓うオルガルヒ達には経済活動を支援した。ホドルコフスキーは05年に9年の禁固刑を受け、13年恩赦を受け、現在英国ロンドンに居住している。


 ボリス・ベレゾフスキーはオリガルヒの代表的人物でエリツインファミリーの一員であった。大手石油会社シブネフチ(シベリア石油会社)設立。最も力を入れた部門の一つがメディア事業であり、テレビ・新聞・雑誌などあらゆる分野のメディアを買収し手中に収めた。

 1996年の大統領選挙、ベレゾフスキーはこれらのメディアと豊富な資金を使ってエリツィン再選に貢献、この選挙を機にベレゾフスキーを始めとする新興財閥が政権内で影響力を増す。1999年、政権与党として結成された「統一」に資金援助、大統領選同様メディアの宣伝を強力に推進し「統一」の勝利に貢献した。ベレゾフスキー自身も下院議員として当選、政治的影響力を増して行く。

チェチェン紛争には反対で、プーチン批判を強めて行く。新興財閥の影響力を削ぎにかかるプーチンと対決する羽目になり、詐欺罪等で失脚、ロンドンに亡命、後自殺することになる。

 

 オルガルヒに反感を抱いていたロシア国民は拍手を送ったのは当然である。プーチンの国民掌握力は中々なものである。こんな事例がある。ある企業で経営不振から労働争議が起きた。経営側は工場をロックアウトして、賃金を支払わなかった。これの陳情を知ったプーチンはその企業にヘリコプターで飛び、社長を労働者の前に呼び出して、ボールペンを投げつけた。賃金支払いに署名しろと云うことである。これはテレビで放映された。用意周到である。後で、この会社には支援金が入れられたと云うから更に用意周到、3者出来合いかと思ってしまう(笑)。


 このようにして、2期8年、国内秩序の回復、経済の復興をなしてその後の去就が注目された。ロシア憲法は連続した3選を禁止している。次期大統領に第一副首相だったメドメージェフ(穏健リベラルと見られ、西側は歓迎した)を指名して、自らは首相として政界に留まることを表明した。これをタンデム体制(双頭体制)と云うが、どちらが上の頭かは誰でも分かった。当時メドメージェフ42歳、プーチン55歳、13歳の歳の差、それ以上のものが両者の差としてあった。メドメージェフの時に次期大統領からの任期は6年に延長された。2012年任期満了、大統領になったプーチンによってメドメージェフは首相に任命された。ロシアは便利に出来ている国だと思ったものだ。


2012年大統領選挙で約63パーセントの得票率で再び大統領に。プーチンが一番苦戦した選挙であった。選挙に不正があったとして、再登板には激しい反対運動が起きた。

2018年大統領選挙では得票率76パーセントで圧勝。

プーチンの支持率は80%、悪くて60%、それも20年もである。クリミヤ併合では90%近くになった。

与党「統一」:党首は現在メドメージェフが務めている。2021年の議会選挙(投票率51,7%)では議員数を減らしたとされるが三分の二を越している。5年前の選挙では四分の三を越している。与党が圧倒的優位にあるのである。2位は共産党。私は用済みになった共産党がズ~と存在し続けていることが不思議でならない。共産党が批判勢力とされているが、ロシアの先を提示出来る訳ではない。複数政党制でも対抗する真面な政党は育っていない。

2022年憲法改正78%の賛成(投票率65%)。改正憲法では2期12年までとされたが、改正以前の者には適用されないので、現行任期の24年で再選されれば2036年まで可能となる。

中国は選挙がない、ロシアは複数政党制でちゃんと選挙が行われている。権威主義的といえても、独裁とは、ロシア国民に失礼ではないかと・・。


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