第6話 プーチンの出世街道

ここからは、プーチン出世街道を行く!である。

1998年5月、プーチンはロシア大統領府第一副長官に就任した。ここでは地方行政を担当し、地方の知事との連絡役を務めたが、後にプーチンはこの職務を「一番面白い仕事だった」と振り返っている。ロシア連邦における地方行政の在り方をプーチンはこの時学んだ。

同年7月にはKGBの後身であるロシア連邦保安庁(FSB)の長官に就任。この時、首相だったプリマコフは次期大統領に意欲満々だった。ユーリ・スクラトフ検事総長と組んで、エリツィンのマネーロンダリング疑惑を捜査していた。逆に察知され、スクラトフは女性スキャンダルで失脚させられた。プーチンの手腕であった。これでプーチンはエリツインの信頼を得るようになった。首相だったプリマコフは解任された。

エリツインは後任に治安維持畑の経歴のセルゲイ・ステパーシンを選んだ。エリツインは既に首相にプーチンを考えていたが、実績があるプリマコフの後任にいきなり無名のプーチンを持って来るのは無理があると思い、ステパーシンを当て馬にした節がある。3か月で解任し、同日付けで第一副首相に任命したプーチンを首相代行に指名し、1週間後正式な首相に任命。政界も国民もこの無名の首相に驚いた。何より驚いたのは、エリツイン後を見ていた欧米諸国であった。

大統領府に入って僅か1年と3か月である。


プーチンについての本を読んでいた。改革的であるとか、民主的であるとか、やたらプーチンの評価が高い。著者を確認した。ペテルブルク大学で講師時代のメドベージェフではないか(笑)。その中で、諜報員は素早く人と信頼関係を築けるプロでなければならない。要するに人たらしである。そうしないと情報は取れない、プーチンはそれに優れていたと書いていた。1年と3か月でエリツインをたらし込んだことになる。

ロシアの政治学者はプーチンに党派性がなかったことを挙げている。エリツインファミリーと称されるメンバーの大統領府長官のチュバイスや、新興財閥のベレゾフスキーらとは距離を取った。エリツインのプーチン抜擢にも、プーチンなら自分たちの政治的影響力を失うことはないと彼らは踏む。甘く見たのである。後にそれは分かる。

同年12月31日に健康上の理由で引退を宣言したボリス・エリツィンによって大統領代行に指名される。プーチンが出した最初の大統領令は、大統領経験者とその一族の生活を保障するという大統領令に署名することだった。これは、エリツィンに不逮捕・不起訴特権を与え、エリツィン一族による汚職やマネーロンダリングの追及をさせず、引退後のエリツィンの安全を確保するものである。


皮肉なものである、ソ連邦が健在であればこの様な出世街道はなかったであろう。ゴルバチョフもエリツインも共産党の階段を地方から一歩一歩登って来たのである。崩壊した動乱、混乱の中にあってこそ実現したのである。

ヒットラーにしてもそうである。第1次大戦の敗戦、帝政の崩壊、ドイツ革命の失敗、大恐慌と続いた混乱の中で、敗残兵伍長からナチスを作って力をつけて行ったのである。

『強者が支配しなければならぬ。これをもって残酷と見るのは弱者のみである』とヒットラーは述べている。強者としての憧れは、ビスマルク時代のプロイセン王国、そしてドイツ民族を統一する大ドイツ帝国(彼は大ドイツ主義者)なのである。強い国家、それは絶対であった。

 ヒットラーのプロイセン、大ドイツ帝国に相応するのが、ピョートル1世とエカテリーナ2世の時代のロシア帝国である。プーチンは尊敬する歴史上の人物としてこの二人を挙げている。ピョートル1世は17世紀~18世紀にかけてロシアを東方の辺境国家から脱皮させ、ロシア帝国をヨーロッパ列強の一員へと導いた人物である。エカテリーナ二世は18世紀ロシア帝国の領土をポーランドやウクライナに拡大した女帝で、啓蒙君主としても名高い。メルケルも女性の立場からエカテリーナ―を尊敬する人物として挙げている。


プーチンは一番好きな言葉はと訊かれて、迷わず「ロシア」と答えている。嘘偽りなくそうだと思う。偉大だったロシア、時代が変わればそれはソ連でもよかった。大きくて強いロシアである。彼は見下されたロシアには耐えられないのである。言葉を変えれば、ヨーロッパでの大国と認めよ、アメリカと伍して来たソ連ロシアをきちんと扱えということである。それがプーチンに流れる一貫したものである。それは、ロシア国民の多くにも流れている。

ソチで格闘技大会があったとき、そのパホーマンスを見学したあと、こう語った。「我が国ロシアで我々が高く評価し、尊敬するのは、一体どういう類の人間なのか、常に最後まで闘い、己の立場を貫くものである」と、特に最後の言葉はプーチンを理解する上で大切な言葉だと思う。

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