第4話 ヒトラーの大衆論
「赤い新聞」が読まれ、「赤い集会」のみがなぜ人を呼ぶのか、当時の社会主義党の事情を理解したとして、『すなわち私は大衆の魂は、弱い手段や半端な手段を受け入れないことを学んだ。推理よりは力に対する憧れに影響される女が、弱い男を支配するよりも、むしろ強い男に服従することを好むように、大衆は嘆願者よりも指揮者を愛するものである。大衆は解放的な自由を与えられるよりも、むしろ敵を許さない教義を学ぶものである。なぜなら彼らは自由をいかに使うかをほとんど知らないので、自由を与えられると、すぐに見捨てられた不安を感じるからである』
大衆についての洞察はなかなか深い。ソ連の崩壊、ロシアの国民は自由になった。さて、この自由をどうしたものか?ヒットラーの大衆のついて語った箇所を挙げてみる。
『大衆の無知を認識し、純粋に心理的理由から、大衆には二種の敵を与えず、ただ一種の敵のみが押し付けなければならぬ。そして、万人の憎悪が、この一つだけの敵に集中されなければならない。多方面に繋がった敵すらも、ただ一種のカテゴリーだけに属するように見せかけることは、真の指導者の才能の一部である。・・目標をはっきり掴んで打ち下ろした一撃は、あちらこちらを叩いて回るよりも、常に有効である』
全てはアメリカの仕業であり、アメリカが悪いとプーチンは語る!
その大衆に対して宣伝の重要を語るナチスのプロパガンダには定評があった。
『宣伝は誰に対してなすべきか、それは大衆(無教育な)に対してである。知識階級には宣伝でなく科学的な指令で、我々はそれを持っている。宣伝の任務は個人を科学的に訓練することではなくて、大衆の注意を、ある一定の事実、事柄、必要等に集中させることである。即ちこれらの事物を重要らしく見せることである。その方法の真髄とは、ある一点を機敏に攻撃して、一般大衆にそれが真実であることを信じさせ、正しい信仰を作り上げることである』。
そして『大衆の吸収能力は、非常に制限されている。大衆は忘れることは極めて多いが、理解することは極めて少ない』(ここは自分のことを言われているようで耳が痛い)。
『従って、宣伝に於いては、特に重要な項目二、三を厳密に限定して、どんなに無知なものでもその意味を知らずにいられなくなるまで、それを繰り返し説くことが肝要である。この原則を無視するや否や、宣伝はたちまちにしてその効力を失う』とする(宣伝会社を起こせば良かったのに、と思ってしまう)。
ヒットラーは宣伝の重要性はマルクス主義、共産党から学んだと、唯一褒めている。その他民衆について『民衆は理性より感情に動かされる』とも・・。
民心の掌握については、『民心を獲得するには、単にそれ自身の目的のために戦うだけでは充分でない。・・同時に、相反する目的の支持者を滅ぼさねばならない。大衆は、その指導者が反対派を倒すことを躊躇すると、それによって、彼ら自身の目的が正しくないとは思わないまでも、その目的がはっきりしていないに違いないと感じる』と書いている。
チェチェン紛争やそれに関わるテロに対した時のプーチンの姿勢・言動。
『人間はひとたび他人によって弱いとみなされると、即座に打たれ、そして敗北する』は彼の口癖だったとプーチンを知る高官は明かしている。ベスラン事件(チェチェン系過激派によって学校が占拠された)後、次の様に述べた。「もし世論に対して少しでも譲歩すると、それはすなわち弱さの表明になる。いったん弱さを示すと、社会は、サメが水中で傷ついた魚の血の匂いを嗅ぎつけたように、我々を食い尽くそうとするに違いない」
ロシアには3つのテレビ局がある。「ロシア1」ソ連時代からの国営放送、「チャンネル1」は公共放送で一番人気がある。NTV (ロシア)は、エリツイン時代は政権批判もしていた。後に書くが、メデイア王と云われた新興財閥(オルガルヒ)を脱税で逮捕、会社を破綻させ、国有資本の傘下に置いてメデイアを掌握した。
大統領と国民との対話番組もあって、ウチの村には何々がないと訴えれば、すぐに設置してくれたとか、場合によっては大統領が直接来てくれたとか、報道されるらしい。あの不愛想に見えるプーチンがにっこり笑って答えて呉れたらそれだけでも十分だろう。そう云えば、アメリカの前大統領は自身のTV番組を持っていたし、ウクライナのゼレンスキーはTVで大統領役を演じて実際の大統領になった。大衆を如何に掴むかが大事な時代なのだ。
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