『会ってくれませんか。話したい事があります』




 冬休みに入って、しばらくしてからの事だった。




 そんな手紙が俺の家に届いた。




 差し出し人は不明だったが、すぐに彼女のものだとわかった。




 身支度をして家を出る。




 吐いた息が空に向かって消えていくのが見える。




 もうすっかり真冬だ。




 場所は夕焼けの見える四ヶ月前に別れた場所。




 美しい夕日の見える、あの丘。




 着くと、案の定彼女は既に来ていた。




 真っ白なコートを纏い、白いマフラーを首に巻いている。




 俺の姿を見るなり、彼女は笑いかけてきた。




「……久しぶり」




「……あぁ」




 教室では会うが、会話をするのは久々だ。




 二人無言でベンチに並ぶ。




 今日は夕日は見えない、日はすっかり沈んで、月が真上に浮かんでいる。今夜は満月のようだ。




「……何から話せばいいか、わかんないね」




「……俺もだ」




 話したいことはいっぱいあった。謝罪の言葉も、この胸の想いも、頭で考えても口には出てこない。




「で、話したい事って?」




 真っ先に口から出たのは、そんなことだった。




「うん、ちょっと待って。その前に」




 彼女は鞄から缶コーヒーを二つ取り出す。一つを俺に手渡し、こう言う。




「あげる、寒いでしょ」




「……おぉ、サンキュー」




 お互いに手袋をしてなかった為、缶コーヒーをカイロがわりにする。




 冷えきっていた俺の心を溶かしてくれるような、そんな温かみを感じた。




「私、実は隠していた事があった。ずっと言おうと思ってたんだ」




 缶コーヒーを両手で握り、彼女は告げる。




 俺の知らなかった、真実を。






「私は……昔、あなたに助けられた。あの時、あなたが助けた女の子は、私なの」






 ようやく、俺の時間が動きだした気がした。





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