③
夕焼け空の見える丘。
ここは俺たちがいつも、最後に訪れる場所であった。
俺も、彼女も、ここから見える景色が本当に好きだから。
この夏は二人でいることの方が多かった。
今まで生きてきて、これ程まで充実した日々はなかった気がする。
ベンチに座りながら、俺はふと思う。
この夏休み、彼女は俺と過ごして楽しかったのか?
彼女から誘うことは多かったが、俺から誘う事もまた少なからずはあった。
彼女は断らずそれを受けてくれた。
彼女は優しい。だけど本当は、俺に気を使ってるんじゃないか。
不意にそんな不安が頭をよぎる。
なぜ彼女は俺と仲良くしている。その答えをまだ、聞いていない。
「この前のこと本当に後悔してる。だけど、聞きたかったんだよ。なんで、俺なんかと仲良くしてるのか」
彼女は答えなかった。ただ眼前の夕陽を見たまま、動かない。
「ちゃんと、言ってほしい」
彼女は少し黙ったまま、小さく告げる。
「……理由、必要?」
「……俺には、必要だよ」
もうすぐ夏休みが終わる。俺たちはまた、あの教室に帰るハメになる。
俺たちが仲良くしていれば、クラスの連中は彼女のことを俺と同様に嫌うかもしれない。
それだけは避けないと。
何も言わない彼女に向けて、俺は一つの質問をする。
「俺は、昔クラスの女の子に暴力ふるって、そこからずっと孤立してるんだよ」
もう思い出したくない、トラウマ。
「仲良くしてくれるのは嬉しい。でも気を使ってるのなら、やめてくれ。嫌いなんだ、そういうの」
俺は提案する。今できる最善策を。
「こうやって会うのを、今日で最後にしないか」
彼女の顔は見えなかったが、泣いている気がした。
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