「今日、一緒にご飯食べない?」




 手に持った弁当を抱えながら、彼女は問う。




「いいよ。別にいらないし」




 本当は断る口実を適当に作っただけだ。




 ぶっきらぼうに断ると、彼女は膨れたように言葉を紡いだ。




「でも、ご飯食べないと大きくならないよ?」




 彼女は時々、うちの母親のようなことを言う。




 その様子が、どこか面白おかしかった。




「あれ、今笑った?」




 口元が緩んだせいか、それを彼女に見抜かれてしまった。




 急いで、平常心に戻る。




「……笑ってない」




「ウソ? 絶対、笑ったよ」




 楽しげな彼女の声に、一瞬、心は揺れかけた。




 が、それもすぐに振り払う。




「……笑ってないって」




 睨みつけると、何故かまた笑われてしまった。




「でも、暗い顔より笑った方がいいよ。 楽しくなるから 」




 言われてみれば、彼女はいつも笑っている。




 人を明るくさせる魅力が、彼女にはあるのだろう。




 まさしく、あの大空に浮かぶ太陽のように。




 しかし、自分は彼女みたいには笑えない。




 心の底から笑うことが出来なくなっている。




 きっと、それは逃れることができないのだろう。




 ふと、周りの視線が気になって、急いで教室を出た。




 彼女が声をあげる前に、廊下に逃げ出す。




 外は明るいブルーの輝きを放つ真昼の世界。




 あんなに空は綺麗なのに、心はどこか淀んでいた。




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