46、この終わったクソみたいな世界で。
世界の情勢は大きく崩れていた。
高齢だったモスグリーン王の崩御が事の始まり。
カイト達が反乱を起こして討ち取ろうとしていたモスグリーン王は、寿命によりなんともあっけなく天寿を全うしこの世を去ったのだった。
その後を受け継いだのは第一王子のシャーロット。
もちろんこれはカイト達が望んだ形ではない。
戦闘能力至上主義の第一王子シャーロットが
彼が王位につき最初に行ったのは、国中の戦闘能力のない人間の解雇。
その結果内政は荒れ、地方では反乱も起き始めた。
それを見逃さなかったサンブラック帝国が宣戦布告してきたことを皮切りに、多くの国がモスグリーン王国に攻め込んできたのである。
大国であるモスグリーン王国の衰退。
そうして世界は戦乱に飲み込まれていったのであった。
深夜。
誰もいない草原に一人で寝転がり、空を見上げている美しい女性。
血だらけの鎧を見に纏い、横には細身の長剣が置かれていた。
「‥‥‥気持ちいい」
顔を撫でる優しい風。
時折吹くやわらかな風を感じることが、唯一の癒しだった。
───私、今日も頑張ってるよ。
彼女はこの半年、ろくに眠ることも出来ず、生きるか死ぬかの戦いを繰り返している。
今が朝なのか夜なのかさえ、時折わからなくなるほど頭は冴えず、正確な判断も最早出来なかった。
こんな生活をしていたら、自分の命がそう長くもたない事はわかっている。
しかしそれで良かった。
───すぐ逝くから、もう少しだけ待っててね‥‥‥カイト。
カイトはサンブラック帝国との小競り合いに巻き込まれて、命を落としたと聞いている。
大事なモノを奪い取ったサンブラック帝国に復讐すること、それが彼女がまだ生きている理由。
彼女の鎧にこびり付いているのは、全てその憎い相手の返り血であった。
「マナ様、ここにおられましたか! 敵方に動きがあります!」
「すぐ行く」
サンブラック帝国の人間を一人でも多く殺す為、マナ・グランドは今日も立ち上がった。
「マナ様‥‥‥それではまた貴方だけが危険過ぎます」
「付いて来れない者は置いていく」
本陣での作戦会議。
だが、作戦会議とは名ばかりで、毎回マナ・グランドを先頭に、正面突破するだけの単純な戦いしかしていない。
むちゃくちゃな戦い方だが、多方面で負け続けているモスグリーン王国軍の中で、唯一彼女の部隊だけが連戦連勝だった。
総大将が先頭に立ち敵を屠って行く姿は兵士たちに覇気を与え、何より勝ち続けることで部隊の士気は上がり、その進軍速度も凄まじい。
他の部隊が自国内で防衛戦を強いられている中、彼女の部隊は国境を超え、サンブラック帝国の首都に迫る勢いだった。
そんなマナ・グランドの活躍は、他国に蹂躙され続ける国民の不満や不安を取り除く為に利用され、国中に流布されている。
他に情報もなく、教育もろくに受けていない国民達は、敵を撃ち破る絶世の美女の活躍に心を躍らせ、中には彼女を女神のように崇める集団まで現れる始末。
マナ・グランドは名実共に、英雄としての地位を確固たるモノにしていたのだった。
「ご自分が、王妃になられる身だという事を忘れないでくださいませ。せめて我々と足並みを揃え‥‥‥」
彼女はシャーロット王との婚礼を間近に控えている。
「会議は終わりだ。出陣する」
マナ・グランドは冷たい表情で副将を睨みつけると、席を立った。
人質を取られての、無理やりな婚約。
王妃にも、シャーロットにも興味があるはずもない。
だが、彼女はこれを身動きの取れなかった自分への好機ととらえた。
結婚を承諾する条件として、婚礼までの僅かな期間、サンブラック帝国への出撃を認めてほしいと願い出たのだった。
彼女が狙うのは、サンブラック帝国皇帝の命。
形勢を考えれば、無謀である事はわかっていた。
だが彼女は立ち止まらない。
───差し違えてでも殺す‥‥‥。
生きて帰る気などさらさらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます