43、2人で一緒に帰ろうね。



「おはよう。そろそろ起きる?」


「‥‥‥おはよう」


 目覚めると、マナの顔が目の前にあった。


 ‥‥‥朝日が眩しい。

 そうか、野宿したんだったな。


「凄く気持ちよさそうに寝てたから、先に朝ご飯、適当に作っといたよ」


「あ、ごめん。‥‥‥そんなに寝てた?」


「うん。ツンツンしても全く起きなかった。カイトがそんなに深く眠ってるの、初めて見たかも」


 ニコニコと笑うマナ。

 

 ───そういえば、ちゃんと寝たのって久しぶりかもしれない‥‥‥。


 昨晩はいつものモヤモヤとした気持ちで眠りにつかなかった。

 隣で眠る美女に触れないように、身体を縮めて寝る必要もなかった。

 触りたいだけ触り、気が済むまで抱きしめながら寝た。


「ごめん、俺だけ爆睡しちゃってたみたいで」


「私も気持ちよく寝れたよ。幸せいっぱいだ」


「そっか」


 ニコニコと笑うマナは可愛かった。







 

 空には雲一つない。

 太陽が真上に昇った頃、俺とマナは目的の場所に到着していた。

 街道を外れ小高い丘から下を見下ろすとモスグリーン王国の陣営が見える。


「陣の敷き方がめちゃくちゃだ‥‥‥」


「そうなの?」


「あれだと横から攻められたら、一気に崩壊しちゃうよ‥‥‥」


「やっぱり、私にはさっぱりわかんないや‥‥‥」


「マナが戦闘する時は、俺が完璧な陣形を敷くから」


「やばい、カイトがカッコいい!」


 後ろから抱きついてくるマナ。

 まだ俺達は馬上である。


「‥‥‥と、調子にのってみる。さあ、そろそろ動き出そうかな」


 俺は馬から降りると懐に忍ばせていた血判状と、偽造した王の書状を取り出した。


「いよいよね」


「お互い気をつけような」


 王の書状をマナに渡し、血判状は再び自分の懐にしまった。


「かなり早く到着したから、マナはまだ動かないでいいと思う。俺が先に血判状の署名活動してくるから、マナはここで待機」


「いつ動き出せばいい?」


「まあ、俺の方の仕事が片付いてたら一度ここに戻ってくるよ。時間がかかるようだったら‥‥‥そうだな、夕刻くらいになったら動き出そうか」


「シャーロット様には、到着したらすぐ書状を渡しちゃっていいのよね?」


「うん。むしろすぐ渡さないと、変な感じになるから。後は、適当に第一王子派の動きに合わせておいて」


「撤退のタイミングはどうする?」


「そうだな、俺から何か合図を出すよ」


「合図?」


「マナの近くで何か変な風でも起こして、わかるようにするよ」


「楽しみ!」


 その目は、子供のようにキラキラしている。


「‥‥‥そんなに大袈裟なのはやらないからな。ちょっとだけ気にしといて」


「了解!」


「じゃあ、お先に行ってくるよ」



 さて、俺の仕事は騎士団の第一部隊と第三部隊の勧誘。

 このよくわからないぐちゃぐちゃの陣形のどこに、目的の部隊が配属されてるかだな‥‥‥。

 

 ───まずは情報収集。



 俺が丘を降りようと歩き出した時、後ろからフワリと温かく柔らかい感触。

 振り向くとマナが抱きついていた。


「なんか離れるのが寂しい‥‥‥やっぱり、付いて行っちゃ駄目?」


「駄目だよ付いてきたら。マナが居ると目立っちゃう。あくまで俺の仕事は隠密だからね」


「そうだよね」


「上手く行けば、すぐ帰って来るよ」


「こんなこと出陣前に、絶対言っちゃ駄目なんだろうけど‥‥‥なんか嫌な予感がするのよね‥‥‥」


 うん。今から出陣する人に言っちゃ駄目な言葉過ぎるかな‥‥‥。


「俺の任務は、人に会って話してくるだけだから安全だよ。それに何かあったらもう魔法使っちゃおうと思ってる。魔法さえ使えば、俺だってそこそこ戦えるだろ?」


「魔法を使ったカイトは最強よ」


「むしろブルターヌ連合国が攻めこんで来たら、マナの方が危険なんだからな? 危なそうだったら、魔法使ってでも助けに行くつもりでいるけど‥‥‥」


 俺を抱きしめている手に力を入れるマナ。

 

「‥‥‥そんな事言われたら、胸がキュンキュンする」


「俺は身体がズキズキするぞ?」


 マナの力は強過ぎる‥‥‥。


「カイト、絶対2人で一緒に帰ろうね」


「ああ、当たり前だろ? じゃあ行って来ます!」


 名残惜しそうにしているマナの手を握りしめるてから、俺は丘を下り始めた。

 

 ───さあ、さっさと終わらせよう。



 振り向くと、いつまでも俺を見送っている、心配そうな顔のマナ・グランドの姿があった‥‥‥。

 

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