41、父は偉大!



 戦地に向かうマナと一緒に、俺も同行する事が決まった。

 滞在している騎士団の団長らと密談し、血判状に署名してもらう為だ。

 戦地で何やってんだって感じだが、元々アルフレド様がある程度話をしているのだから、割と上手くいくと思う。

 署名さえしてもらえれば、和解交渉中だろうがなんだろうが、王都に帰還してもらう予定。

 ブルターヌ連合国とモスグリーン王国の戦闘は避けられないと予想しているが、残った第一王子派の部隊がそのままブルターヌ連合国と戦闘に入ってくれれば、暫くの間防衛までしてもらえるので、そちらの対策もバッチリだ。

 今回勧誘する第一部隊と第三部隊の撤退方法についても、一応策は練ってある。

 サンブラック帝国に怪しい動きがあるので、急ぎ王都にその2部隊を戻せといった内容の王の書状を用意した。

 もちろん偽造したもので、アルフレド様に頼んで作成してもらっている。

 王の書状を偽造する行為はとんでもない罪になるそうだ‥‥‥。

 だがここまでくると、いずれ反乱は露見すると思うので、最早どうでもいい。

 少しでも時間が稼げれば十分。

 俺とマナは反乱の一報が王都に届く前に部隊より先行して急ぎ帰還し、王都に残る勧誘済みの騎士団第五部隊と合流し王を討つ。

 その後は遅れて到着する、第一部隊・第三部隊と共にサンブラック帝国と戦う。


 かなり強引だが、王都にあまり兵力が残っていない今なら可能だろう。

 いや‥‥‥王を討つだけなら、俺とマナさえいれば、そもそもなんとかなる気がしてる。

 懸念されていた、サンブラック帝国と戦う為の兵力がそれなりに揃うのが、この作戦の要だ。





「カイト、少し話がある」


 出発は明日なので少し早めに帰宅し、部屋で用意していると父上に話しかけられた。


 ───これはお小言だな‥‥‥。


 国の命令で初陣を飾るマナと違い、俺は完全にお忍びである。

 表立って人には言えないので、身近な人間にも一人旅に出かけると話していた。

 学園まで休んで、何やってんだというところだろうな‥‥‥。

 まあ、全くもってその通り。


「‥‥‥なんでしょう」


「お前は、バウディ家の一人息子としての自覚はあるか?」


 やっぱり始まった‥‥‥。


「父上、今回の旅で見聞を広め帰って参ります」


「‥‥‥この大事な時期に、お前という奴は‥‥‥」


「学園の事なら大丈夫です。ちゃんと問題なく休む手続きなど済ませておりますので」


 学園長が味方なので余裕です。


「そんな小さな話をしておるのではないんだ‥‥‥」


 いつになく真剣な表情の父上。


「じゃあ、いったい何の話ですか?」


「‥‥‥カイト、私が今から話す内容、心して聞いて欲しい‥‥‥お前を一人の男と見込んで頼みがある」


「‥‥‥どうしました?」


 これは只事じゃないな‥‥‥。

 身体も小さく弱々しい父上だが、この人が俺に頭を下げるのはかなり珍しい。


「私には大恩を受けたある方がいるのだ。その方に報いる為、私は国を裏切ろうと思う‥‥‥」


「‥‥‥はい?」


「お前に頼みと言うのは、マナちゃんが私達を手伝ってくれるよう説得してほしいんだ‥‥‥後、アイシャの事を私に代わり守ってもらいたい」


 アイシャ・バウディは母上の名前。


「‥‥‥父上、詳しくいいですか?」


「聞いてくれるか‥‥‥」






 父上は騎士団の第五部隊に所属している。

 血判状に署名をもらったサンス様の部隊だ。


「つまり父上は士官学校すら入ってないのに、騎士団に不正入隊してたわけですね!」


「‥‥‥そういう言い方はやめてくれ。ちゃんと推挙されてるし、相談役としてしっかり働いているんだから‥‥‥」


 父上のような端くれの団員は、普通戦闘の内容など告げられず、指示通り進軍するだけの存在。

 しかし父上はどうも第五部隊のどなたか知らないが偉い人の相談役だったようで、反乱の全貌を聞かされているようだ。

 その人物もサンス様から全て聞かされているということは、信用出来る賢き人だとは思われる。

 

 ───しかし、知らなかった‥‥‥。


 こんなヒョロヒョロの弱々しい人が、なんで騎士団に所属出来ているのかと、ずっと疑問ではあったが‥‥‥。


「父上、見直しました!」


「‥‥‥どうした急に?」


「そんな恵まれない身体で、よくぞそこまで上り詰めましたね!」


「‥‥‥それは、誉めてるのか?」


「自分がそんな大役をしているのに、俺にはなんで身体を鍛えろとばかり言うんですか?」


「‥‥‥私はたまたまそのかたに拾ってもらえただけで、普通は入隊なんて絶対無理。それに騎士団に入隊しても地獄だ。未だに陰湿な陰口を叩かれる‥‥‥お前には出来れば強い男になって欲しい」

 

 陰湿な陰口の内容はだいたい想像できる‥‥‥。


「血は争えませんね」


「お前が言うな」


「俺は本当に見直しましたよ」


 家に難しい本が妙に多かった理由も理解出来た。

 この国の人間は読書なんてほとんどしないからな。


「カイト、マナちゃんとアイシャの事なんだがどうだろうか?」


「ああ‥‥‥」


 ───‥‥‥どうしよう。


 マナはもう既に反乱に加担してるし、俺も自分の任務がある。

 ‥‥‥もう、素直に話しちゃうか?


「実はな、そのかたがマナちゃんの説得に直接来られているんだ。マナちゃんが帰ってくる前にお前も会って話してくれ」


 うわ、めんどくさい。


「いえ、大丈夫です!」


「‥‥‥カイト、大丈夫とかそういうのじゃないから」


「‥‥‥はい」


 俺は父上に連れられて、一階の応接室へ向かうのだった。



 ───これは、本当にどうするか‥‥‥。


 同じ反乱をする仲間だからと言って、俺とマナがこれからどんな動きをするのかなんて、正直まだ誰にも話したくない。

 それに父上は大恩があると言ってたが、その人物がどんな人かもわからないんだ。


「カイト、粗相のないように頼むぞ」


 よし‥‥‥父上には申し訳ないが適当に誤魔化そう。

 もう、それしかない。


「はい、気をつけます」


 応接室のドアを開けて中に入ると、にこやかに笑う筋骨隆々の初老の男性が座っていた。


「‥‥‥え?」


 待て待て‥‥‥。


「サンス様、こちらが愚息のカイトです。カイト、此方は騎士団第五部隊団長のサンス様だ」


「‥‥‥まさか、君は?!」


 目を見開くサンス様。


「サンス様、ウチの息子が何か?」


「そうか‥‥‥カイト・バウディ‥‥‥バウディ君の息子さんだったのか!」


「‥‥‥え? 知っておられるのですか?!」


「以前話した、アルフレド様の片腕であろう、賢き使者の若者だ。血判状にも誰よりも先に署名されておられたよ」


 にこやかにサンス様。


「‥‥‥はい?!」


 

 父上、また見直しましたよ‥‥‥ある方って団長様じゃないですか‥‥‥。


 ‥‥‥コレはもう全部話そう。

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