40、3日で発狂します!



 アルフレド様の仕事を始めてから数日が過ぎたある日、おかしな事が起こる。

 園長室にマナと俺が同時に呼ばれたのだ。

 部屋に入るとアルフレド様が一人で椅子に座り、いつも通り足をブラブラとさせている。

 何かバレたのかもしれないと、身構えていたのだが‥‥‥。


「あ、来たかい?」


「流石にやり過ぎですよ‥‥‥。2人同時に呼んじゃ駄目でしょ」


 事を進め出したアルフレド様は、以前と違い少し大胆に行動するようになっていた。

 まあ、俺が血判状を持ってウロウロしているのでバレる可能性はある。

 大胆になるのも、多少は仕方ないと思うのだが‥‥‥。


「カイト君、それくらい僕でもわかるから‥‥‥。今日は学園長として堂々と呼んでるんだよ」


「学園長として?」


「ちょっとこれ読んでよ」


 渡されたのは封筒に入った手紙。


「‥‥‥シャーロット様から?」


「ややこしい事が書いてあるよ」


 ‥‥‥読むか。





「マナに戦場に来いと?」


「簡単に言えばそう言う事だね」


「あのクソ王子‥‥‥学生を戦場に駆り立てるなよ」


 ブルターヌ連合国と戦争にならないように、御出陣していたバカ王子。

 どうも話し合いは上手くいってないようで、今にも戦闘が始まりそうなのだとか‥‥‥。


「第一王子の威厳で、アホでも何とかなるって言ってませんでした?」


「‥‥‥僕の想像を超える相当のアホだったのか、それとも裏で何か動いているかだね」


「裏で動く?」


「一応ウチの国は大国だからね。ブルターヌ連合国だけじゃウチには勝てない。そうなると‥‥‥」


「‥‥‥サンブラック帝国ですか?」


「カイト君、よく勉強してるじゃないか。僕は、サンブラック帝国が裏で手を引いていると睨んでいる」


「いよいよやばいですね‥‥‥」


「まずいね」


 サンブラック帝国はモスグリーン王国に次ぐ大国。

 最近は皇帝も代わり、武官も文官も優秀な人材を広く登用し、兵の数は相当なものに増強されていると聞く。

 正直、今のままのモスグリーン王国では勝てる気はしない。


「アルフレド様、私は行くべきですか?」


 別になんて事ない顔をしているマナ。


「シャーロット様は、他国にも名を轟かせているマナ君を呼びつけて、敵の戦意を削ぐつもりなんだと思うんだけど‥‥‥」


「サンブラック帝国が陰で糸を引いてるなら、マナが出陣したくらいじゃ止まらないでしょ?」


「うん、そう思うね‥‥‥だから悩んでるんだ」


「じゃあ、行かなければいいんじゃないですか?」


 相変わらず淡々とマナ。


「しかしここで行かなければ、マナ君は反逆罪に問われる事になるだろう。今あの人は、軍の総指揮を任されている状態だから、国の命令に背いた事になってしまう」


「この大事な時期に‥‥‥」


 本当めんどくさいバカ王子。


「ここは思い切って王を暗殺しちゃうってのは駄目なの?」


 やはり好戦的。


「マナ、急ぎ過ぎると仕損じちゃうよ‥‥‥」


「そうだね。救援に向かうなら、マナ君は明日にはたないといけないだろうし、あまりにも時間がないよ」


「とりあえず行くだけ行って、さっと帰って来ましょうか?」


「おそらく直ぐには帰って来れないだろうね」


「それは困ります。私はカイトと3日以上離れると、発狂するかもしれません」


「愛だね」


 ニコニコとアルフレド様。


「それはもう」


 ニコニコとマナ。


「‥‥‥否定はしないけど、ちゃんと話そうぜ」







 ウェンディ先輩の部屋。

 本当は4人で話したかったのだが、ウェンディ先輩とアルフレド様の接触はまだ避けようと言う事になったので、訪問したのは俺だけだ。


「それはまた時期が悪いね」


「‥‥‥でしょ」


「署名はどれくらい集まってるんだい?」


「あ、見ます?」


 俺の差し出した血判状を眺めるウェンディ先輩。


「割と集まってるけど、このままだと兵士が足りない」


「やっぱりそうですよね」


 これも時期が悪いのだが、騎士団の多くの人間はブルターヌ連合国との小競り合いの為出兵していて、今は王都にいない。


「‥‥‥ものは考えようか。マナ・グランドさんと一緒に戦地に向かい、勧誘してきたらどうだい?」


「戦地で署名活動ですか‥‥‥」


「まだ戦は始まってはいないんだろ?」


「ただ時間の問題で、いつ開戦してもおかしくない状況みたいですよ」


「モスグリーン王国の威厳も地に落ちたね。第一王子の説得でも戦は止められないとはね」


「王子が無能なんじゃないですか?」


「いや、使者の能力云々より、完全にウチの国が舐められてるんだよ。おそらく誰が行っても、話し合いで解決は無理なんだろうね。平和ボケし身体ばっかり鍛えて、内政や外交を蔑ろにした報いとしか言いようがないよ」


「しかし、ブルターヌ連合国はウチの国に勝てる気でいるんですかね? 流石に兵力差があり過ぎるでしょ」


 プルターヌ連合国は小規模な国々の集まりの国家で、そこまで強い戦力を持っていない。


「おそらく、裏でサンブラック帝国が暗躍してるんだろ? もしかしたら同時に攻め込んでくるかもね」


「‥‥‥自分で聞いといてなんなんですが、ウェンディ先輩って、どこでそんな話聞いてくるんですか? 詳し過ぎでしょ‥‥‥」


 俺たち一般人には、そういった情報は一切伝わってこないのがこの国。


「フフフ、秘密だよ。‥‥‥と、言いたいところだけど、バウディ君にだけ教えといてあげよう。私の実家が営んでる商売を覚えてるかい?」


「確か‥‥‥卸問屋って言ってましたっけ?」


「世界を股にかける結構有名な店なんだよ。支店もあらゆる国に存在しているんだ」


「‥‥‥あ、まさか?」


「そう、情報はそこで集めさせてる。どこかに売り飛ばすわけじゃなく、完全に私の趣味だ」


 この幼女、実はかなりのお金持ちの令嬢だったか。


「ずるい」


「ずるくない。情報を制するものは世界を制する。‥‥‥また、一つ格言が出来たね」


「はいはい」


「まあそこでだ、戦争は止められないと私は思う」


「‥‥‥ですよね」


「今の状況だと、君達が戦地に行く事は避けられない。君もマナ・グランドの夜伽役として付いていくんだろ?」


「夜伽って‥‥‥」


 やましい事はしてません。


「ならば割り切って騎士団の署名集めだね」


「やっぱりそうなりますか」


 戦場が怖いわけではないのだが、無駄な戦闘は今は出来れば避けたかった。


「ここで一つ私の極秘情報なんだが、開戦しても、攻めてくるのはおそらくブルターヌ連合国のみの、小規模な戦力だろうね」


「本当ですか?」


「間違いない。サンブラック帝国がブルターヌ連合国側に兵を動かしたという話は全く聞かない。むしろ危ないのはここだ」


 ウェンディ先輩は話しながら世界地図を持ってきて、ある地点を指差した。

 そこはモスグリーン王国の東に位置する、サンブラック帝国との国境。

 ちなみにブルターヌ連合国とは反対の西側の国境で、絶賛小競り合い中。


「‥‥‥サンブラック帝国が攻め込んで来ると?」


「これに関しては確かな情報じゃないから、可能性の一つでしかないんだけど、ウチの国との国境付近に、兵力を集めてるって話だよ」


「まさか同時に?!」


「裏でブルターヌ連合国を動かしてるなら、ありえるだろ?」


「すぐアルフレド様に報告しないと!」


「バウディ君、落ち着くんだ。今更焦ってもどうしようもないんだよ‥‥‥ウチの国のお偉い様達は、そんな事一切考えずに、かなりの兵士をブルターヌとの国境に出陣させちゃってるからね。王都にはサンブラックと、事を構えるだけの兵力は残されてないはずなんだ」


「‥‥‥なんてお馬鹿な国」


「この平和な世界情勢でまさか急に、しかも同時に攻め込んでくるなんて、誰も思いもしないんだから仕方ないよ。私に情報が届いたのも、つい先日だったしね」


 このままだと、俺達の反乱より前に国が滅んでしまいそう‥‥‥。

 今は国を守るのが先決か?


「‥‥‥いや、待てよ‥‥‥俺達も同時に全てヤッちゃえば‥‥‥」


「お、気付いたかい?」


「‥‥‥勧誘、撤退、反乱からのサンブラック帝国と戦う?」


「うん。私もそれが一番いいと思う。勧誘出来ない部隊は、そのまま残ってブルターヌ連合国を足止めしてくれるだろうし」


「忙しそう!」

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