33、『魔法』ですね。ご一緒に『最強チート』はいかがですか?
「決勝に出られないの‥‥‥」
「うん。でも作戦の指示を出したり、観覧席からだけど応援も出来るみたいだから、そんなに俺は嫌でもない。むしろこんな軽い処遇で全て
あの後、園長室をそうそうに退室した俺とマナは、家に帰るため農道を歩いていた。
アルフレド様が言うには、マナと彼が長い時間話す事は、お互いにとってあまりよくないらしい。
国の英雄になろうとしてるマナ・グランド。継承権第二位の人間が懐柔するのに、こんな優良物件はないそうだ。
確かに味方に加える事が出来たなら、国民に対しての凄い影響力と、純粋にとんでもない戦力を手にした事になるよな‥‥‥。
なので、マナが怒って俺を迎えに来た事にして‥‥‥まあ、本当にその通りなのだが‥‥‥俺達はすぐに園長室を後にした。
アルフレド様と話した内容は、帰りながら俺からマナに説明している。
「ねえ、私が今からシャーロット様に文句言いに行ったら‥‥‥やっぱり駄目なのかな?」
「やめとこう、アイツは腐っても第一王子。アルフレド様との事もあるし、今は勝手に動かない方がいい。それに俺のせいでマナまで士官を棒に振って欲しくない。さっきも言ったけど俺は結構満足してるから」
「でも‥‥‥私のせいで‥‥‥」
悲しそうな顔。
「なんでマナのせいになるの?」
「私が魔法使えって言ったし‥‥‥」
「いやいや、まず魔法を使ってないと俺は絶対に勝てなかったわけだし。むしろ決勝に残れた事で、ウェンディ先輩とも戦えるんだ、楽しみで仕方がない」
園長室で話をしてる間に、ウェンディ先輩のクラスは軽く決勝進出を決めている。
聞くと、砦の外に布陣し敵を誘い込み、奇襲で相手の砦の旗を奪取する事で勝利を掴んだそうだ。
俺も同じような作戦は考えついてはいたが、そつなくこなす所が素晴らしい。
───やっぱりあの人は凄い!
これで明日は、前代未聞の事務クラスによる決勝戦が実現しそうだ。
「‥‥‥ごめんね」
「だからなんで謝るんだよ」
「守るとか偉そうに言っといて、何も出来ない‥‥‥」
今にも泣きそうな顔。
「マナは何も悪くないし、なんなら俺は色々と楽しくなってきた。見ろよ、こんな見た事もないような貴重な本も貸りれたんだぞ?」
鞄に放り込んでいる本をマナに見せる。
帰り際、アルフレド様が読んでおけと用意してくれたモノだ。
精霊語百科事典と書かれた怪しげなモノから、この国の成り立ちについて書かれた真面目なモノまで様々。
俺達一般人には、とても手が届かない貴重な本で鞄の中はいっぱいだ。
「‥‥‥カイトはアルフレド様に付くの?」
権力争いの話か‥‥‥。
「まだ俺にはあの人がよくわかってない。それに、継承権争いとか俺には関係ないだろ?」
「関係ない事はないでしょ。カイトを手に入れた人間は、とんでもない『力』を得たと思って間違いないもの」
アルフレド様にそういった考えがないとは言い切れない。
いや、むしろ魔法狙いで俺に近づいてきたと思う方が、納得出来る‥‥‥。
「そもそものところアルフレド様が、王位に興味があるのかも分からないんだ。あまり深く考えないでおこう。すぐにどうこうなる話でもないだろうし」
「私のせいで、権力争いに巻き込まれちゃったね‥‥‥」
「だから、もう気にすんなって。この話はもう、お終い!」
マナの肩を掴んで、顔を見るように向かい合った。
「ごめん、後一つだけ先に言っときたい事がある‥‥‥私はカイトがどんな選択をしても、絶対に付いていく。逃がさないから覚えといてね」
ニコリと笑いながら俺の手を掴むマナ。
無理して笑っているんだろうな、まだ目が潤んでいる。
───付いていくか‥‥‥。
こんな事言われて、嬉しくない男がいるわけがない。
だが、そうなるとだな『魔法』と『最強チート』がセットで手に入る事になるぞ?
権力者なら誰でも欲しがりそうな、とんでもないモノが出来上がっちゃったな。
これは、かなり気を引き締めて考えないと、凄く大変な事になりそうな気がする‥‥‥。
「俺、マナに少しは追い付けたかな?」
「凄い勢いで色々と追い抜かれた気がするわ。今日も負けちゃったし」
「フフフ、少しは見直したか?」
「何、その変な笑い方」
「ウェンディ先輩の真似」
「‥‥‥あっそ」
そう言えば最近ウェンディ先輩と全く会ってないな‥‥‥。
魔法についてもまだ話せていないし、明日決勝が終わったら部屋に遊びに行こうかな。
「で、その本人に勝てそう?」
「うーん、かなりきついと思う。模擬戦でもほとんど勝ててないしな‥‥‥」
今日の戦いを聞く限り、砦から出てまともに陣形を組んで攻めてくるみたいだから、こっちも打って出るかな‥‥‥。
「明日は私も応援するね」
「明日は俺も応援席から応援だけどな」
本番中はやる事がない。
「よし、一緒にラール君に
「マナが応援すると、ウチの大将は緊張で実力の半分も力を出せなくなるかも」
おそらく顔を赤くして、真っ先に討ち死にするだろう。
「これ以上迷惑かけたくないから、やっぱり静かに応援する事にしようかな」
「そうだな」
苦笑いする俺と目が合うと、マナは微笑みながら腕を組んできた。
「さ、帰りましょ! カイトは早く休んだ方がいいわ。魔法を撃ちすぎて疲れてるでしょ?」
「そういえば、もの凄く疲れてたような気がしてきた」
「変な言い回しね」
「‥‥‥色々ありすぎて忘れてた」
「今日はカイトが決勝に残ったおめでたい日なんだから、笑って帰ろ!」
ニコニコと笑うマナに引っ張られ、家に向かい歩き出す。
‥‥‥そうだな。
色々あったけど、今日は俺が初めてマナ・グランドに勝てた記念すべき日なんだ。
今日ぐらい、素直に喜んだってバチは当たらないだろ?
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