32、カイトに何かされましたか?



「つまり決勝戦に俺は参加するなと?」


「話が早くて助かるよ。決勝戦への出場停止、せめてこれくらいしとかないと、シャーロット様は納得しないと思うんだよね。その代わりに、君のクラスの他の人はちゃんと決勝に出られるようにするつもりだから」


 細目のアルフレド王子は、相変わらずニコニコと笑っている。


「それだけであの人納得しますか?」


 準決勝一回戦終了と同時に、俺の元へ向かおうとしていたバカ王子を抑えてくれたのは、このアルフレド王子だったようだ。


「そこは任せてもらえるかな? 上手いこと丸め込むよ」


「‥‥‥まあ、お任せしますけど」


 出場停止くらいで本当に納得するもんかね?


 別に不正を働いて勝ち抜いたわけではないのだが、魔法の存在を隠すとどうしても此方の言い分が弱い。

 そこで、疑わしいだけの者を罰するという力技を先に行う事により、バカ王子が俺に手出しし難くするようだ。


「君には申し訳ないと思ってるよ。本当はウェンディ・ノースとちゃんと戦いたかっただろ?」


「まあ、確かに」


「ただ、参加はするなと言っても、策を講じるなとは言ってない。事前に指示を出したり等して上手い事やってくれるなら、別にとがめたりしないよ。どうせ参加してても、君自身は砦に籠ってるだけだっただろうから、そこまで悪い条件ではないだろ?」


「そんな事して良いんですか?」


「多分アイツらには分からないし、僕が個人的に君達の戦いを見たいってのが本音かな。残念なのは、戦闘中に指示が出せない君が完全に不利だってところだね‥‥‥」


「大丈夫です。ウチのクラスの人間は頭いいんで、先にある程度言っとけば勝手に動いてくれます。‥‥‥ただ、ウェンディ・ノースは俺より全てにおいて格上ですから、そもそも勝てる見込みは少ないんで」


「そんなに凄いのかい彼女?」


「模擬戦を10回したら、7、8回は負けれます」


「模擬戦? 君達そんな事して遊んでたの?」


「ウェンディ・ノースが考案した遊びです」


「‥‥‥彼女とも早く話してみたいな」


「ウェンディ先輩呼んできましょうか?」


「いや、今はやめとくよ。僕が動き回ると嫌な顔をする人間が多いんでね」


「学園長が生徒と話すだけでしょ?」


「こんなでも一応僕は、この国の王位継承権第二位だからね。人と会うだけで継承権第一位の側近の方々は、僕が勢力を伸ばして何か企てようとしてると大慌てしだすんだよ」


「‥‥‥なんか、色々大変なんですね」


「物心ついた頃からだからもう慣れた。ただ、君には申し訳ないけど、今回は運が良かった。この状況じゃなかったら君と腹を割って話すなんて出来なかったからね」


「‥‥‥それはどうも」


「ウェンディ・ノースとは折りをみて話してみたいが、今じゃない。ちょっと今回は僕も動き過ぎている。君を救うだけで精一杯ってところかな」


「‥‥‥」


 やばいな。

 アルフレド様がとても良い人に思えてきた‥‥‥。

 俺は簡単に人を信じ過ぎか?


「後は、決勝がある明日だけ我慢してくれれば、暫くは大丈夫だと思うよ」


「決勝で俺が活躍しないだけで、シャーロット様が落ち着くとは思えませんけど?」


「いや、シャーロット様は明後日から遠征に行かれるんだ。ちょっと今ウチの国、ブルターヌ連合国と揉めててね。王族のシャーロット様がわざわざご出陣して、戦争にならないように説得に行くんだよ」


「そんな事になってたんですね‥‥‥知らなかった。しかし、あの人にそんな器用な事できるんですか?」


 あの人とはバカ王子の事。


「こういう時は、使者の肩書きがものを言うんだ。あんなのでも、一応モスグリーン王国の第一王子だからね」


 ‥‥‥この人も割と言うな。


「まあ、俺には関係ない世界です」


 国の偉い人達のやってる外交に興味はない。

 仮に興味があったとしても、そういった対外的な話は、俺達国民の耳に一切入ってこないのがこの国。


「おやおや、何を言ってるんだい? 今度詳しく世界の情勢なんかも教えてあげるから、ちゃんと勉強しとくように」


「‥‥‥なんで俺が?」


「今回の件で国への士官のチャンスがなくなる上に、僕が妙に肩入れしちゃうから、君はアイツらにますます目をつけられる可能性が高い。その代わりと言ってはなんだけど、君の将来を僕に保証させてくれないかな?」


 アルフレド様は細い目を開き、鋭い視線を此方に向けてきた。

 これがこの人の偽らざる素顔なのだろう。


「‥‥‥身体も鍛えずふらふらと遊び回った挙句、国王にまで愛想をつかされて隠居老人しかいない士官学校に飛ばされた第二王子が、何カッコつけて言ってんですか? 俺この学校の用務員とか、全然興味ないですよ?」


「‥‥‥うん、その通りだね。僕もそろそろ真剣に身の振り方を考えないとな────」



 トンットンットンッ。



 園長室に響く扉をノックする音。


「思ったより早かったね。どうぞ入りたまえ」


 返事より少し早く扉を開け、部屋にて入ってきたのはとんでもなく冷たい目をした美しい美女。


「アルフレド様、カイトに何かされましたか?」


 過保護すぎる俺の保護者マナ・グランド。

 学園長が第二王子のアルフレド様だって事、マナは知ってたんだな。


「やあマナ・グランド君、今日の準決勝残念だったね」


 ニコニコとアルフレド様。


「そんな事聞いておりません。何をされてたんですか?」


 ───あ、やばい。


 これは完全に怒ってるな‥‥‥。

 相手が王族だろうが、今にも切り掛かりそうな雰囲気。


「‥‥‥おやおや、これは僕の想像以上に愛されてるようだね。シャーロット様が嫉妬するのも頷けるよ」


 ニコニコと変な分析してる場合じゃないでしょ‥‥‥。

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