31、学校なのに学園長?



 モスグリーン王国士官学校。

 その歴史は長く、数々の有名剣士を輩出してきた伝統ある学園。

 

「初めましてカイト・バウディ君」


「お世話になってます」


 そして今俺と向かい合って座っているのが、この由諸あるモスグリーン王国士官学校の学園長らしい。

 イベント事には一切顔を出してなかったので、正直存在自体知らなかった。


 ───居たんだ。


 まあ、当然と言えば当然か‥‥‥。

 おさの居ない機関なんてないよな。


 銀色の肩までかかる長い髪、細身で色白の20代くらいに見える男性。

 どこからどう見ても弱そう。

 国中から選ばれた戦闘能力重視の屈強な生徒が通い、そしてそれを教える筋骨隆々な先生方しかいない学園のおさとは思えない。


「まずは決勝進出おめでとう」


「ありがとうございます」


 準決勝でマナのクラスに勝利した俺は、喜ぶ間もなく学園長室に呼び出しをくらっていた。


「事務クラスが決勝に残るなんて、前代未聞だよ」

 

 細い目をより細くしてニコニコと笑う学園長。

 こんな事を言うために呼び出したんじゃないだろ?


「今戦ってる三年の事務クラスが勝てば、決勝は事務クラス対決です。そうなると、学園としてはもう目も当てられませんね」

 

 現在校庭ではウェンディ先輩が戦っている。

 どんな戦い方をするのか見たかったな‥‥‥。


「おやおや、皮肉を言われちゃった」


「事実を言ったまでです。そうならないように、俺を呼び出して何かするつもりなんでしょう?」


「初めて会うのに凄い嫌われようだね。せっかく兄上から守ってあげたのに酷いなぁ」


 相変わらずニコニコと笑う学園長。

 ‥‥‥これは笑ってるのか?

 目が細いからそう見えるだけかもしれない。


「兄?」


「シャーロット様は僕の異母兄なんだ」


「シャーロット様の弟って‥‥‥まさか、あの変人で有名な?」


「初対面なのに割と失礼だね‥‥‥その変人でおそらく合ってるよ。僕はアルフレド・グリーン。一応この国の第二王子だ」


「第二王子が、こんなとこで何やってんですか?」


「何って、学園長。公表してないから知らない人が多いけどね」


 ニコニコと第二王子のアルフレド。


「王族なんだから、他にやる事あるでしょ」


 士官学校は騎士団を引退した老兵が、教師として働く場所として有名だ。

 どんなに頑張ろうと、それ以上の昇進は見込めないので、若い人間はほとんどいない。

 ましてや彼は第二王子、もっと有意義な機関に就任するべきだろ?

 

「厄介払いってやつだよ。ただ、何もしなくても周りが勝手に運営してくれるし、学園長は楽でいいよ」


 ニコニコと笑う、モスグリーン王国の第二王子アルフレド・グリーン。

 彼は王国の教えである『暇があるなら身体を動かせ』に背く男として有名だ。

 脳筋野郎の第一王子と違い、身体も鍛えずふらふらと遊んでいる彼は、王宮内で相当嫌われているらしい。


「で、その学園長様が俺に何の御用でしょうか?」


「何となく内容はわかっているだろ? このままだとシャーロット様がうるさいんだ、いくつか質問をさせてもらっても良いかな?」


 まあ、俺がマナに正々堂々と戦って勝ったなんて、あのバカ王子だけじゃなく誰も思ってないだろうからな‥‥‥。

 しかも砦の中で1対1。

 普通にまず勝てる筈がない。


「どうぞ」


「僕は化かし合いが嫌いだから単刀直入に聞くけど、精霊語って知ってるかい?」


 ───‥‥‥はっ?


 なんだコイツ?!


「‥‥‥なんですか急に」


「君なら知ってるかなと思ってね」


「知らないです」


「あれ? おかしいな」


 ‥‥‥バレてる?

 いや‥‥‥誰にも見られてなかったし、見られたとしても、風が吹くだけで俺が使ってるなんて分かりゃしないんだ。

 そもそも魔法の存在自体、ほとんどの人が知りもしない。


「‥‥‥おかしいとは?」


「ちょっと個人的な話をするよ。毎年行われる合戦大会に全く興味がなかったんだ。だけどね今年は僕の注目してる生徒、ウェンディ・ノースとカイト・バウディが出場するって言うから楽しみにしてたんだよ。君達の一回戦からの戦いは、随時報告してもらって詳細まで知っている」


「それはどうも」


 詳細‥‥‥。

 三回戦の件も知ってんのか。


「そこでもう一度質問だけど、カイト・バウディ君は精霊語が話せたりするかい?」


 コイツ、どこまで知ってんだ?!


「‥‥‥」


「黙秘とはまだまだだね。僕ならこの場合、知らないの一点張りを決め込む所だよ」


 ニコニコと笑う第二王子。

 駄目だ、底が見えない‥‥‥。


「‥‥‥化かし合いは嫌いだったんじゃないんですか?」


「だから、ストレートに聞いてるんじゃないか」


「俺の反応を見るために、ワザと『精霊語』なんて単語をいきなり言ったんでしょ?」


「君はやっぱり面白いね。まだ若いのに頭の回転も早いようだし、ますます気に入ったよ」


 アルフレド・グリーン。

 コイツは常にニコニコとして温和に見えるが、表情に騙されては駄目だ。

 おそらく目の奥は笑ってない。


「気に入ってもらえたのは光栄ですが、事と次第によっては俺にも覚悟がありますから、そちらも覚悟してください」


「怖い事を言うね‥‥‥。なにか勘違いしてるようだけど、君を兄上から守るためにわざわざ動いてる事を忘れないでもらえるかな」


「守る?」


「このままだとシャーロット様に何されるかわからないよ? 今回の勝ちもマナ・グランドがワザと負けたと思ってるから、最悪なんやかんやと理由をつけられて、投獄されちゃったりするんじゃないかな」


「そこまでしますか?」


「あの人はマナ・グランドにお熱だからね。嫉妬に狂う権力を持った人間は恐ろしいよ」


「‥‥‥それは不味いですね」


 納得は出来ないが、百歩譲って自分が捕まる事を我慢したとしよう。だが、そんな事になったらマナが黙っちゃいないだろう‥‥‥。

 アイツ暴れ出すんじゃないかな?


「マナ・グランドが心配だろ?」


「‥‥‥ええ、まあ」

 

 お見通しですか‥‥‥。


「今も彼女に気付かれないように、こっそり君を呼び出してるけど、バレたらすぐにこの部屋に突撃してきそうだもんね」


「来るでしょうね‥‥‥」


 恥ずかしながら過保護なんです。


「なので手短に話そう。先に言っておくけど、君に精霊語とかなんとか言ったのは僕個人の判断であって、シャーロット様や国は何も知らないよ」


「‥‥‥そうですか」


「あと、さっきも言ったけど僕は君を高く評価している。でなければ、シャーロット様に楯突いてまで守ったりはしない。その事を忘れないで欲しい」


「‥‥‥はい」


 完全に手の平で踊らされてるな‥‥‥。

 とりあえず話してからどうするか考えよ‥‥‥。

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