26、……頑固者。



 準決勝開始時刻まで残り数分。

 砦に戻ってきた俺は、屋上に上り本来であれば旗が置かれていたであろう場所に胡座をかいて座っていた。

 ここからだと戦場が見渡せる。

 相手からも俺は丸見えだろうが‥‥‥。

 敵方は砦から全員が外に出て、マナを先頭に中央部で待機している状態。

 砦を守る必要性が全くないのだから、そうなるよな。


「カイト、どうすんだ?! もう時間がないぞ!」


 横に立っていた、不安そうな顔のラール。


「今考えてる‥‥‥」


 砦に設置される筈の旗がなくなり、大将も強引に変更された。

 

 ───勝つには大将を討ち取るしかない。


 マナの皿を割れば俺たちの勝ち。

 逆に俺の額の皿が割られたら負け。

 至極単純。


「‥‥‥単純がゆえに、打つ手なし‥‥‥」


「コラ、諦めんな!」


 独り言にツッコんでくるラール。


「もちろん、まだ全然諦めてないから」


 ここまできて諦めてたまるか。


「‥‥‥じゃあ、お前何で笑ってんの?」


 ───笑ってる?


 言われて気付く。

 どうやら俺の顔は締まりなくニヤニヤとしていたようだ。


「‥‥‥ごめんラール。俺、凄く楽しんでるみたいだわ」


「この状況下でありえない程の戦闘狂‥‥‥しかも、マゾっ子属性付き」


 ‥‥‥マゾっ子とは失礼な。

 ただ、俺は昔から難題を抱えるほど楽しむ傾向は確かにあった。

 でも、今回のゾクゾクする感じはそれだけじゃないな‥‥‥。

 俺は立ち上がって、戦場の中央に立つ敵の大将を見た。

 

 ───戦闘狂かもな。


 どうやら、自分で思っていた以上に同じ戦場に立ちアイツと戦える事が、俺には嬉しかったみたいだな。

 

 


「カイト、もう駄目だ時間がねぇ!」


「よし、ラールは元の予定通り他3名と一緒に出陣」


「おう! 逃げ回ればいいか?!」


「いや、今回は逃げ回らず、真っ直ぐ砦の正面の門に向かって逃げて来て」


「‥‥‥おう!」


「ごめん。結局もう、俺が考えられる手はコレしかなかった。マナ・グランドを一人にする状況を作って全員で戦う!」


「謝んな。それで?」


「相手の陣形を見る限り、『偃月えんげつの陣』に近いし、マナは絶対に先頭で突っ込んで来る筈だからおそらく上手く‥‥‥って、もう時間がないな。とにかく開始してちょっと戦う素振りを見せたら、全力でダッシュ。後はこっちで門を開くから中に逃げ込んでくれ!」


「了解、行ってくる!」


 そう言うと、ラールは威勢よく階段を駆け下り仲間を引き連れて門を飛び出して行った。

 

 ───ラール、頼んだ。






 ジャーンッ! ジャーンッ!ジャーンッ!

 


 ラールが出陣して間もなく鳴り響く鐘の音、それと同時に会場の凄い歓声が聞こえた。

 戦闘が開始された合図。

 その時点で、まだ俺は砦の1階で残ったクラスメイトに作戦を伝え、準備をしている最中だった。

 外の様子はあまりわからない。



「カイト君、動き出しそう!」


「わかった、後よろしく!」


 屋上で戦況を見てもらっていたサラと交代して、屋上へ駆け上がる。

 とにかく早く相手の動きが見たい。


 ───動き出したら止まらない。


 アイツの戦い方はとんでもないスピードで敵を壊滅させて行くんだ、その速さに合わせて的確に指示を出さないと一瞬で終わっちまう。

 そうなると、作戦も何もあったもんじゃないんだ。




 屋上に上がって違和感。


 ───静か過ぎる。


 俺が屋上に出ると会場は水を打ったように静まりかえっていた。

 マナ・グランドを先頭にゆっくりと前進を始める敵方。

 それを見た観客が固唾を呑んで見つめている為、静かなようだ。


 ───‥‥‥はっ? ありえない。


 距離を取って向き合うのは、僅か4名の事務クラスの人間。

 はっきり言って戦える戦力じゃないのは一目瞭然。

 それなのにだ、敵の行軍が遅過ぎる。

 やはりラールが大将ではないので、囮として弱いのか?

 ‥‥‥いや、違うな。

 今回のラール達は逃げ回ってる訳じゃない、大将じゃなくても敵が前にいるんだ、倒しに来ないのはおかしい。


 ───アイツ‥‥‥全然本気じゃない‥‥‥。


 敵が何人だろうと、どんな計略が待ち構えていようと、ただ前進して全て破壊していくのが俺の憧れたマナ・グランドだろうが!


 ───ふざけんな!


 急なルール変更で思う所があるのはわかる。

 だけど、それとこれとは別の話。

 俺はやっとこの場所に、お前と同じ場所に立てたんだ。

 今のお前に勝ったって、俺はちっとも嬉しくねぇぞ!



「コラァッ!! 本気を出しやがれ! お前はそれでもマナ・グランドかぁっ!!」



 静まっていた戦場に響く俺の声。

 マナ・グランドに対するありえない挑発行動により、先程より一層静まりかえる会場。

 それのおかげか、はたまた別の何かのおかげか、かなり距離があるので普通なら聞こえないであろう美女の声が聞こえた気がした。



「‥‥‥頑固者。覚悟しなさいよ」



 ニコリと笑うマナ・グランドの放つ空気が変わった気がした。


 ───来る!

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