24、さあ、私に勝てるかな!
合戦大会準決勝当日早朝。
校庭に建てられた砦の中。
まだ開始時刻までかなり時間はあるのだが、戦場を見学しに来た俺とラール。
「凄えな!」
「うん。思ってた以上に大きい」
製作期間たった1日の急ごしらえ。
砦と言っても、小さな小屋くらいの大きさを想像していたのだが、中で戦闘が可能なくらい広い。
簡易な二階建てではあるが、壁はしっかりしてるし、砦の4方向全てに大きな門まで用意されていた。
後は裏手に小さな扉が用意されているが、これは皿を割られた人間が退場するための緊急出入り口らしい。もちろんここから攻め込んだりしたら反則負け。
「国の偉い人が観にくるから、学園も気合いいれてるんだろうな」
「カイト、今年はシャーロット王子まで来るらしいぞ」
「ああ、知ってる」
「王族の前で戦うとか凄いよな。活躍したら俺らにも士官の話とかあったりするのかな?」
「ラール、あんまり期待しない方がいいぞ。あの人、事務クラスを凄えバカにしてるから」
「お前‥‥‥もしかして会ったことあるの?」
「うん、帰ったら家にいた」
「‥‥‥んな事があってたまるか」
「マナに会いに来てたんだよ」
「もしかして、マナさんがシャーロット様から求婚されてるって噂本当だったのか?」
「それは俺の口からは言えない。本人達に聞いてみて」
「本人達って、片方は王子だ。俺が話せる訳ないだろ‥‥‥。カイトはその時シャーロット様と話したのか?」
「うん。まあ、感心しない人だった」
「感心しない?」
「勉強する奴は無能で女々しいとか言ってたな。絵に描いたような『力』至上主義のアホ」
「アホって‥‥‥お前、一応相手は王子だからな‥‥‥」
「まあでも、そのおかげで俺たちは合戦大会に出れてるんだから、ある意味感謝しなくちゃ」
「どういう意味だ?」
「俺の無能さをマナに教える為に、事務クラスは合戦大会に急遽参戦になったって‥‥‥あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないし、王子めっちゃお前に嫉妬してんじゃん‥‥‥」
「‥‥‥やっぱり今の話、聞かなかった事にしといて」
「これは、マナさんとイチャイチャしてる世界中の男の敵、カイトへの天罰だな」
「‥‥‥なんだそりゃ。相手は人だ、天罰じゃない」
そう、相手は人間のただのアホ。
「さて、そろそろ教室に戻ろうぜ。皆そろそろ集まって来てんだろ。早く顔出してやらないと、緊張で倒れる奴が出ちまうかもな」
「そうだね、流石大将ラール。今日も俺達を引っ張ってくれよ」
「なんか勘違いしてるけど、皆が待ってるのは俺じゃなくてお前だぞ?」
「それはないだろ」
戦わずに後ろでコソコソしてる姑息な人間に、人はついてこない。
「カイトって頭良いくせに、人の気持ちはわからないタイプだよな? その鈍感さでマナさんにも嫌われてくれれば、俺は最高に幸せかもしれない」
ニヤリと笑うラール。
「‥‥‥ひっでぇ」
「さあ、行こうぜ」
俺たちは教室に向かう為、戦場を後にした。
「皆ごめん。先に言っておくと、はっきり言って今日の作戦は、今までと違って自信は全くない」
黒板に書いた簡易な戦場の地図を使って、作戦の説明をする俺。
「ゲリラ戦は使えないし、相手はマナ・グランド、おそらく大将を討つのはかなり難しいと思う」
真剣な顔で聞いてくれるクラスメイト達。
教室に戻ってきて驚いたが、皆想像以上に落ち着いており、取り乱してる人間は一人もいなかった。
「色々な陣形とか、砦での籠城戦とか考えてみたんだけど、どうも上手くいく気がしなかったんだ‥‥‥」
「カイト、皆お前の作戦に文句言うつもりはないんだ。前置きはいいから、サクッと考えた最善の策を教えてくれ」
せっかちラール。
「ラール君に賛成! カイト君の指示に従いまーす!」
サラの声に頷く一同。
「じゃあ、俺の考えた作戦を説明します」
‥‥‥やり易くてありがたいです。
「つまり、今回は大将を狙わないんだな?」
「そういう事。多分マナ・グランドは俺達が束になっても戦闘能力じゃ勝てない気がするんだ。そうなると狙うのはここしかない」
黒板に書いた相手の砦を指差す俺。
マナ本人も言っていた事だが、残念ながら敵大将の皿を割るのは不可能だと思う。
「狙うのは砦の旗か」
真剣な目で黒板を見るラール。
準決勝から用意された砦の屋上には旗が用意されており、それを奪取することでも勝利となる。
「去年までのマナのクラスの戦い方を聞いたところ、ほとんど全員が砦から出てマナ・グランドを先頭に一気に押し寄せてくるそうだから、上手く凌げればチャンスはあると思う」
「上手く凌げればな‥‥‥」
「そこで大将ラール君、今回は本当に全力で自陣の砦の辺りをクルクルと逃げ回ってもらうから」
結局これが一番囮として効果がある。
「‥‥‥俺あんまり自信ないぞ?」
「ラールの足の速さは、他のクラスの人と比べても速い方だから自信を持って」
「‥‥‥挟み撃ちとかにされちゃわないか?」
「うん、なるだろうね、でもそれでいいんだ。ラールには相手をある程度固めて貰うのが目的だから。そして敵が固まったら作戦第二弾はここ」
俺は黒板の自軍の砦を指差した。
「ラールと数名で大将を守る陣形を組んで逃げてもらう予定だけど、おそらくその内追い詰められるだろう。ラールは頃合いを見て砦の裏の門から、中に逃げ込んでもらう」
「逃げ込んで籠城か?」
「いや、籠城するのは敵」
「はっ?」
「逃げ込んだ後、門は開けておく。敵軍、出来れば全員が望ましいけど、コッチの砦に入ってもらっちゃおう。そして外から門を閉めて閉じ込める。敵にコッチの砦で籠城してもらうんだ」
「‥‥‥それ、砦を乗っ取られてるから、コッチの負け確定じゃんか」
「今回の戦いは旗さえ守れれば砦なんてぶっちゃけどうでもいいんだ。旗があるのは、狭い階段を登った屋上だろ? 砦の一階の空間なんて占領されようが、知った事じゃない」
「狭い階段を利用して、数で有利に戦うのか‥‥‥」
「いや、狭かろうがなんだろうが、マナ・グランドが先頭で来たら勝てないと思う。だから階段を破壊しちゃうか、無理ならなんか物を置いて通れないようにしちゃおう。出来るだけ時間を稼いでる間にコッチが向こうの旗を奪う」
「‥‥‥階段を破壊したら、後で怒られねえか?」
「戦闘なんだし別にいいんじゃない? 本当は敵を閉じ込めた後、砦に火をつけて一網打尽にしたいくらいだぞ? 階段くらい破壊してもいいだろ」
「カイト、怖っ!」
引くラール。
あ、よく見たら皆引いてる‥‥‥。
「本当の戦争だったらって話ね‥‥‥今回はやらないから。ラール達数名以外は初め屋上で待機。敵がこっちの砦に入るのを確認したら梯子で下に降りて此方の門を全て封鎖、そのまま梯子を持って敵の砦の旗を狙う」
「‥‥‥敵を自分達の城に閉じ込めるなんて聞いたことがないぞ」
「こんな開けた校庭で戦わされてるんだ、使える物は全部使わないと。ただこの作戦はかなりリスクが大きい。逃げ回ってるラールがやられたら終わりだし、敵の砦を守る人間が多いと失敗する可能性が高い‥‥‥。皆どうかな?」
そして、正面から戦っても勝てないとはいえ、かなり姑息な手段。
もし勝てても、国の重役達には嫌がられるだろう。
「僕はカイト君の作戦に賛成!」
「私も賛成!」
「カイトが居なかったらここまで来れなかったんだ、俺は言われた通り働くぞ!」
数名のクラスメイトの声を皮切りに、皆賛成の意を見せてくれた。
準決勝開始時刻はもう少し。
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