23、魔法に決まり!



「つまり、カイトがその『新たなる力』を使って悪い奴らをボコボコにしたって事?」


「なんか言い方が悪い。風で吹き飛ばしたの」


「カイト、凄い!」


 俺の部屋。

 マナはベッドに腰掛け、俺は椅子に座っている。

 完全に異能である『新たなる力』は、マナには怖がられなかったようだ。

 それよりも、こんな怪しげな話を見てもないのに信じてくれてる事が異常か?


「ねえ、何かやってみてよ」


 子供のように目をキラキラとさせるマナ。


「‥‥‥やっぱり見たい?」


「うん!」


 どうしようかな‥‥‥。

 なんとなくサラに言われた言葉が思い出された。


『デュフデュフってキモい。マナさんが見ても、ドン引き』


 ───ドン引きされる?


「‥‥‥なんかさ、その精霊語の発声がかなりアレかもしれないんだ‥‥‥」


「アレって?」


「キモい」


「別にいいんじゃない? 凄い力には反動は付き物よ?」


「‥‥‥なんだそりゃ」


「もしかしてだけど‥‥‥私に嫌われるのが怖くって悩んでるの?」


 また目をキラキラとさせるマナ。


「‥‥‥よし、使おう!」


 聞こえた舌打ちを無視して、椅子から立ち上がった。


「ワクワクするわね」


「凄く軽いのやるから‥‥‥」



『ヒュルルシュル』



 締め切った部屋に吹き抜ける風。

 風はマナの髪を撫でて消えた。


「凄い! 涼しい!」


 乱れた髪をかきあげながら、楽しそうにこちらを見るマナ。


「‥‥‥怖がったりしないんだな」


「なんで?」


「いや、なんとなく」


 俺ならこんなモノ見させられたら、とりあえず引くと思う。


「凄く驚いてるけど? もっと反応が欲しかった?」


 そう言う意味ではない。


「‥‥‥とにかく、今のが手に入れてしまったオカルトな『新たなる力』です」


「ねえねえ、その『新たなる力』って名前長くて変じゃない?」


「そこ? でも本にはそう書いてあるから」


 確かに長ったらしいが。


「寝かしつけの時に話してくれた昔話で、こんな感じの『力』を使う人が出てくるお話なかったっけ?」


「ああ、『ラットの伝説』かな?」


 主人公のラットが、妙な力を使い国を平和にする、あまり知られていないマニアックな子供向けの昔話。


「そのお話で『力』の事、なんて呼んでたっけ?」


「『魔法』だったかな」


「あ、いいじゃない。『魔法』って呼ぶ方がカッコいいから、今からそう呼びましょ」


「‥‥‥おいおい、勝手に名前変えるなよ」


「話す時いつも『新たなる力』、なんて長ったらしい名前を言うのめんどくさいじゃない。それにどうせ他に誰も使えないんだし、そもそも誰が怒るのよ?」


「‥‥‥怒るとしたら精霊‥‥‥かな?」


 精霊ことキモいオッサン。

 ‥‥‥どうでもいい気がしてきた。


「決定ね!」


 ニコニコとマナ。


「わかった『魔法』ね」


「よし、明日から魔法を使って皆をビビらせてやりましょ。カイトが私なんより凄い事、国中に見せつけてやるのよ!」


「待て待て、この『力』を人前で使うつもりはないぞ!」


「カイト、『魔法』ね」


「‥‥‥魔法は人前では使わない」


「なんでよ?」


「こんな怪しげな力、人前で使ったら下手すると国に捕まったりするんじゃないか?」


「だから『魔法』だよ」


 凄いこだわるな‥‥‥。

 今のは文章的に『力』で正しかった。


「それに、まだよくわかってない事が多すぎる。どうも強くやり過ぎると気を失ったり、フラフラになるんだ。せめてもっと使いこなせるようになるまでは、人に話す気もない」


「‥‥‥ねえ、明後日の準決勝でガツンと使っちゃいましょ」


 ‥‥‥そうなると、ガツンと使われるのはあなたになるぞ?


「やだ」


「じゃあ私にどうやって勝つつもりなの?」


 それは‥‥‥まだなんも考えてない。


「兵法を使って‥‥‥」


「カイトのクラスの人が仮に30人で私1人に襲いかかって来ても、悪いけど負ける気は全くしないわよ?」


 ‥‥‥恐ろしい発言だが多分その通り。


「わかんないぞ、マナにだって弱点の一つや二つあるはずだ」


 あるのかな‥‥‥俺が知る限りない。

 コイツの戦闘能力は本当に異常だ。


「‥‥‥実は一つあるんだけど、教えてあげようか?」


「え、あるの?!」


 コクリと頷くマナ。

 

「‥‥‥カイトから私にチュウしてくれたら、明後日まで力が出ないと思うの」


 赤い顔でモジモジするな‥‥‥。


「マナ、昨日も言ったけどワザと負けたら怒るぞ」


「全くつれないわね‥‥‥」


「それとこれとは別の話。俺はマナ・グランドと真剣に戦ってみたいんだ」


「‥‥‥勝てる?」


「それはわからない」


「頑固ね」


「お互い様」


「わかった、この話はおしまい。もう寝ましょう。カイトおいで」


「‥‥‥話が急過ぎる」


 相変わらず、強引に引っ張られてのダイレクト就寝。





「今日は忙しいわよ」


「‥‥‥忙しい?」


「お互い三回戦勝った訳だし、私にもご褒美が必要でしょ?」


「‥‥‥」


「順番にしようか」


 目の前にこれでもかってくらい、真っ赤なマナの顔。

 多分俺の顔も赤いんだろうな‥‥‥。



 寝不足でもいい気がしてきた。

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