19、初めてづくしだ!



 精霊語の発音は難しかった。

 ウェンディ先輩から拝借してきた、『精霊語発声の基礎』に、書かれている内容にも間違いが多く見られる。

 

 ───これは、腰を据えて解読していくしかないな‥‥‥。


 明日行われる三回戦の戦場の下見を兼ねて、森の中で本と睨めっこする俺。


「‥‥‥オカルトマニア」


 ええ、今の俺は完全にオカルトマニアです。

 

 ───出来ちゃったものは仕方ない。


 やはりウェンディ先輩の部屋で起こった風は、俺の『新たなる力』によるモノだった。

 何度か試してみたが、俺は風の精霊が絡んでる呪文なら使えそう。

 そして、精霊語さえしっかり理解できてれば、呪文に決まりはないようで、極端な話『風の精霊、力貸せ』とこんな短い文章でも、涼しげな風が吹く事がわかった。

 ただ、内容によって威力が変わるのと、あまり威力の強い『力』を使うと気を失いそうになる。

 ウェンディ先輩の部屋で倒れてしまったのも、これのせいだ。

 やはり詳しく精霊語を解読して、ある程度話せるようになってる方がいいかもしれない。


 それにしてもだ‥‥‥。


 ───完全に異能。


 もくもくと解読しながら試してはいるのだが、果たしてコレを使う機会はあるのだろうか?

 この能力はあまり人に見せない方がいいと思う。

 特にこのモスグリーン王国において、こういったオカルトチックな力は糾弾されかねない。

 ‥‥‥いや、きっとやばいだろう。


 ちなみに、ウェンディ先輩にもまだ話せていなかったりする。

 彼女には隠すつもりはなかったのだが、おそらくこの力はあのオッサンと契約してないと発動しない。

 ウェンディ先輩には使えないと思う‥‥‥。

 なんとなく話づらかった。


 ───まあ、明日にでもちゃんと話すか。


 戦場の下見を終わらせた俺は、『新たなる力』を使いすぎたせいなのか、妙な疲労感を感じながら家路についた。








「‥‥‥何かあった?」


「別に。‥‥‥なんで?」


「なんかいつもと違う」


 寝るために俺の部屋に訪れたマナ。

 もちろん何かはあったわけだが、そんなに顔に出てるかな‥‥‥。


「合戦大会の二回戦を勝ちぬいたことが、俺を大きく成長させたのだよ」


「‥‥‥そう」


 ‥‥‥話を変えよう。


「マナは二回戦どうだった?」


「私を誰だと思ってますか?」


「愚問でした」


「冗談よ。私達だって負ける時は負けるでしょうから」


 謙遜してるマナだが、おそらくコイツが学園の生徒に負けることはないだろう。

 マナのクラスが、二回戦を圧勝で勝利したことは知っている。


「明日勝てれば、次は準決勝でマナのクラスとだもんな‥‥‥なんか考えなきゃ」


「カイトのクラスは凄いって聞いてるから、私達にも勝てるかもよ?」


 ニコニコとマナ。


「‥‥‥手、抜くなよ?」


「シャーロット様も準決勝から観に来るらしいわよ。カイトとウェンディさんのクラスが残ってて、かなりイライラしてるらしいけどね」


「そういえば、事務クラスの無能さをマナにわからせる為に、俺たちは参加してたんだったな‥‥‥」


 完全に忘れてた。

 もはやどうでも良い事実。


「カイトの凄さ見せつけてやりましょう!」


「二回戦突破してる時点で、かなり見せつけてるからもういいだろ。‥‥‥で、手抜きするなよ?」


「一緒のクラスだったら良かったのにね‥‥‥。さあ、もう寝ましょ。明日も頑張らないと」


 腕を引っ張られ、俺は強引にベッドに引きずり込まれた。


「おい、人の話は無視か?」


 マナに抱きしめられて、身動きが出来ない。


「私はカイトを信じてるから」


「どういう意味だよ?」


「そのまんまの意味」


「‥‥‥全然わからん」


「私くらい軽く倒しなさいって言ってるの」


 ‥‥‥貴方は軽く倒せるような相手じゃありません。


「国内最強の騎士が言うセリフじゃない」


「カイトは私なんかより凄いんだから、もっと自信を‥‥‥ん? ねぇ、やっぱり今日なんかあった?」


 抱きついたまま、俺の顔を見てくるマナ。

 

「顔が近い‥‥‥別に何もない」


「本当?」


「なんで?」


「匂いが、違う‥‥‥」


 なんだそりゃ?


「ちゃんと湯浴みしたぞ」


「‥‥‥うん」


 匂いでなんかわかるの?

 貴方は犬か?


「マナ、もう寝よう。明日も頑張ろうな」


 そう言うと俺は目を閉じた。

 今日は色々あって疲れている。

 きっと睡魔はすぐに襲ってくるだろう。


「うん、おやすみカイト‥‥‥」

 

 唇に柔らかい感触。


 ───えっ?


 目を開くと‥‥‥。

 マナの赤い顔。


「二回戦突破のご褒美‥‥‥」


 ‥‥‥。


「‥‥‥はい」


「明日も勝ったらまたしてあげる」


「‥‥‥俺、今のが初体験なんですが?」


「私もよ。おやすみ‥‥‥」


 ‥‥‥。


 今日も寝れそうにありません。

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