14、楽しい合戦大会



「おい、カイト知ってるか?!」


「俺は何も知らない」


「‥‥‥わかったよ、俺の聞き方が悪かった」


「合戦大会の話だろ?」


「知ってんじゃねぇか!」


 などとラールと戯れてる場合じゃないな‥‥‥。

 シャーロット王子が家に来た次の日の朝。

 登校すると、合戦大会に事務クラスも参加する事がすでに告知されていたようで、教室中が騒がしかった。


「それで、カイトはどう思う? 俺たちに勝ち目はあるのか?」


「‥‥‥普通にないだろ。詳しいルールは知らないけど、国のエリート30人対一般人30人の戦闘なんだ、むしろどうやって戦えと?」


「‥‥‥カイトまでそんな事言うなよ」


「まあ、どうせ出るんだから、出来るだけがんばろうぜ」


「おいおい、皆お前に期待してんだから、もっと気合い入れてくれよ」


「クラスの中でも、ズバ向けて戦闘能力が低い俺に何を期待してんだよ‥‥‥」


「お前の戦闘能力なんて、そもそも誰もアテにしちゃいないって」


「そうよ、カイト君は前に出ちゃダメよ。作戦と指示を出してくれたらいいの、私たちはそれに従うわ」


 いつのまにか側に来ていたサラ。


「いやいや、俺も武器を持って戦うぞ、皆んなにだけ危険な思いはさせられない。自分だけ安全な場所から指示を出すような卑怯な事はしたくないよ‥‥‥」


 俺はそんな人間にはなりたくないんだ。


「カイト君は卑怯なんかじゃない! そんな小さな体で戦場をウロチョロされると私たちにとっても本当に邪魔なだけなの、何も気にしちゃダメ! カイト君を卑怯なんて言う人はこのクラスに居ないよ!」


 いつのまにか集まっていた数人の生徒がサラの声に頷いていた。

 皆、真剣な顔で。


「‥‥‥ひっでぇ」








「バウディ君、知ってるか?」


「俺は何も知りません」


「ウズウズするね。私は本気でイクつもりだよ」


「‥‥‥俺の返答はどうでもいいんですね」


 ウェンディ先輩の部屋。

 読書していたら、部屋の住人がウキウキと帰ってきた。


「私はこんな機会を待っていたんだ。この国のアホ共に、参謀の凄さを見せつけてやろうじゃないか」


 両手で自分の肩を抱き、身体を震わせる幼女。


「テンション高めですね」


「‥‥‥私的な話をすると、ここで活躍して国に認められないと、実家の卸問屋を継がないといけなくなるんだ‥‥‥」


 ウェンディ先輩の実家は有名な卸問屋さんだ。


「商人ですね」


「商人だね」


 俺たち事務クラスは、卒業しても国への士官は約束されてない。

 商人になる者がほとんどだ。

 しかし、ウェンディ先輩程の人材が在野なんて、この国は本当にどうかしている‥‥‥。


「それで、何か作戦はあるんですか? いくらウェンディ先輩でも戦力差が半端ない小規模戦闘じゃ、どうしようもなくないですか?」


「‥‥‥ああ、君は今年入学だから、『合戦大会』のルールをよく知らないんだな。準決勝までは余裕で勝ち上がれるぞ」


「マジっすか?」




 ウェンディ先輩に教えてもらった『合戦大会』の概要。

 一年から三年の全てのクラスが参加し、30チームのトーナメント方式で行われる。

 武器は木刀や木槍、後は矢尻の付いてない弓など、殺傷能力が高くない武器や道具ならなんでも使用可能らしい。つまり火薬などは駄目って事だ。

 ここまではなんとなく知っていた。

 注目すべきはここから。

 出場する者は額に小さな皿を取り付けるそうだ。

 その皿を割られたら戦死扱いで、戦場から退場しないといけないらしい。

 そして大事なのは大将には赤い皿が用意され、大将の皿を割るとその時点で戦闘終了なんだそうだ。

 そう皿を割れば勝ち。これは俺たちにとってかなりありがたい。

 あの筋肉ムキムキのエリート達と真剣に戦っても勝てやしないんだから‥‥‥。

 なおかつ大将さえ倒してしまえば、自動的に勝てる。



「なるほど、なんか頑張れば行けそうな気がしてきました。でも、準決勝まで余裕ってのは言い過ぎじゃないです?」


「フフフ、それは戦場に理由があるんだ」


「戦場ですか?」


「うん。準決勝と決勝は学園の校庭で行われるんだ。お互いに小さな砦が用意されて、砦の中に設置された旗を取ったチームも大将の皿と同様に無条件で勝ちとなる」


「砦を用意するって、凄い気合いの入れようですね」


「準決勝からは国の重役達も視察に来るから、学園側もいい所を見せたいんだろ? まあ、それは置いといてだ、時間と場所の都合なのか、準決勝までの3試合はそこらの森で野営戦なんだ。もちろん砦なんて存在しない」


「野営戦ですか?!」


「フフフ、わかるかい?」


 なるほど!


「ゲリラ戦に持ち込んでの大将狙いですね」


「その通りだバウディ君。エリート達はアホばかり、作戦もなく突っ込んでくるだろうから至極楽だと思うぞ」


「‥‥‥そんなに上手くいきますかね?」


「去年までの戦闘を見てる私が言うんだ、間違いないよ。それよりも準決勝からが大変だ。奇襲などの作戦がまるで使えない開けた校庭だからね、戦力差がモロに出る」


「‥‥‥準決勝まで残れればいいですけど」


 事務クラスが準決勝まで残り、国の重役達の前で戦うなんて前代未聞だろうな。


「後は運に嫌われなければ、だけどね」


「‥‥‥運ですか?」


 この人は綿密な計算を重ね、確率重視の思考を好む。

 ここに来て『運』とは珍しい。


「トーナメントの組み合わせはクジで決めるらしいんだ。私からするとバウディ君とマナ・グランドさんにさえ、早々に当たらなければという所かな」


「‥‥‥俺も、ですか?!」


「今回の『合戦大会』では、君は脅威以外の何者でもないよ。是非手合わせしたい所だが、一回戦で当たって負けでもしたら洒落にもならないだろ?」


「‥‥‥なんか、俺めっちゃ嬉しいです!」


「何を今更‥‥‥そんな目で見たって何もあげないぞ」


 赤い顔のウェンディ先輩。

 感動でついつい手を握ってしまっていたようだ。


「後、ウェンディ先輩って割とマナをかってたんですね。武官の人は総じて余裕って言うかと思ってました」


「君の彼女は別次元だ。この小規模戦線でアレは計略云々でなんとかなる戦闘能力じゃない‥‥‥。まあ対戦する事になったら、君には申し訳ないが本気でやってみるけどね」


「恨みっこはなしでしょ」


「君ともどこかで戦いたいね」


「はい!」


 めんどくさかった『合戦大会』が、急に楽しみになってきた俺でした。

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