13、がんばろう!



「お前がカイトか」


「はい」


 自宅の応接室。

 上座に座る高貴な服装をした男性。

 黒い短髪で20歳前半くらいの筋骨隆々な肉ダルマ。

 この人がモスグリーン王国の第一王子、シャーロット・グリーンのようだ。


「士官学校の事務クラスらしいな」


「はい」


 ‥‥‥事務クラスだからなんでしょう?

 この人は絵に描いたような文官嫌いのようだ。

 マナに会うために来たのだろうが、王子が下級兵士の家にわざわざ来るなよ‥‥‥。

 マナと共に帰宅した俺は、家の前で待っていた青い顔の父上に首根っこを掴まれ、強引に同席させられていた。

 応接室に入る前に、マナとは姉弟の関係だと話すように父上には強く言われている。

 

 ───凄くめんどくさい‥‥‥。


「小さい頃から姉弟のように育てましたので、本当に不出来な息子でございますが、マナ・グランド様には仲良くしてもらっております」


 俺の隣に座っていた父上。

 父上はマナがシャーロット王子の妃になるのが当然と思ってます。

 

「うむ‥‥‥そのようだな」


 俺とは反対側の父上の横に座るマナと、俺を交互に見るシャーロット王子。

 

 ───うーん、嫌な予感しかしない。


「学園での2人の振る舞いはまるで恋人のようだと報告を受けたが、それはどういう事だ?」


 こちらを冷めた目で見てくるシャーロット王子。

 やっぱり伝わってる‥‥‥。


「め、滅相もございません! 2人は仲が良く、本当に姉弟のような関係でして‥‥‥そのように勘違いをされる方が多いだけにございます! カイト、お前からもちゃんと言いなさい」


 父上の顔が怖い‥‥‥。

 かなり怒ってらっしゃる。

 まあ、父上からしたら何やってんだって所だろう‥‥‥。


「‥‥‥マナと俺は恋人では────」


「シャーロット様、本日は何をしに来られたのですか?」


 俺の声はマナの声に遮られた。

 笑顔だが目は笑ってない。


「マナ・グランド、お前に会いに来たんだ。悪い噂を耳にした時の俺の気持ちを少しは考えてくれ‥‥‥」


「以前お話ししましたが、シャーロット様のお気持ちには応えられませんので」


「いったい何が嫌なんだ‥‥‥王妃になれるんだぞ? こんな良い話が他にあるわけないだろ?」


「王妃になりたくはありませんので」


「そうか、王妃になるのが嫌だったのだな。では俺は妾でも構わんぞ」


 おお、なんと都合の良い思考回路でしょう!


「‥‥‥そういう意味ではありません。私には共に過ごしたい男性がおりますので」


「まさか、本当にこのチビと恋仲なのか?!」


「シャーロット様、私のような汗臭い小娘ではなく他の綺麗な令嬢をお探し下さい」


「‥‥‥否定しないのか?」


「まだ恋仲ではありませんので、否定も肯定もしません」


「‥‥‥まだとはなんだ‥‥‥こんなチビのどこが良いんだ? どう見ても何の役にもたたんだろ?!」


「カイトの悪口はおやめください」


 笑顔のマナ。

 苦い顔のシャーロット王子。

 そして魂が抜けてしまった父上。

 俺は何も言えねえ‥‥‥。


「‥‥‥マナ・グランドよ、お前は間違っている。お前はこの国を代表する騎士になるんだ、こんな小僧ではお前は守れん。苦労するだけだぞ?」


「シャーロット様、カイトは弱くなどありませんから」


「どう見ても弱いだろ?」


「カイトはその類稀な頭脳を使って、強く生き抜ける人間ですので」


「‥‥‥試してもいいか?」


「私の家族に何かされるようでしたら、許しませんよ?」


 マナは笑顔をやめ冷たい表情。


「安心しろ、お前に嫌われたくはない。勉学をするような奴がいかに女々しく、無能であるかを気付いてもらいたいだけだ」


 シャーロット王子はニヤリと笑い、俺の方を向いた。

 ‥‥‥何する気だ?

 

「喜べ、その類稀な頭脳とやら、いかんなく発揮できる場所を提供してやろう」


「‥‥‥はぁ」


「士官学校の『合戦大会』、今年だけ特例で事務クラスの参加を認めてやる。存分に暴れてみるがいい」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるシャーロット王子。

 そうきたか‥‥‥。

 完全に嫌がらせだな。


「シャーロット様、事務クラスで活躍する者がいたら、ちゃんと士官の時優遇してもらえますか?」


 ニコニコとマナ。


「そのような者がいたら、もちろん俺の権限で必ず拾い上げてやる‥‥‥しかしマナ・グランドよ、現実をしっかり受け止め俺の───」


「シャーロット様、見直しました! カイト、がんばりましょ!」


 満面の笑みのマナ。


 王子の話は最後までちゃんと聞こうな‥‥‥。

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