15、おじさまは伏線じゃないわよ!



 街の外にある森の中。

 ここが俺たちの合戦大会一回戦の会場。

 一人森を歩く俺。

 まだ本番ではない。

 戦場の下見ってやつだ。

 

 ───中央に、開けた場所があるな‥‥‥。


 おそらくここが主戦場。

 木々がまばらにしか生えておらず足場もいい。

 他の怪力自慢のクラスならここでやり合うのだろう。

 

 ───だが、ここでは戦わない。


 こんなところで正面からぶつかっても負けるのは目に見えてる。

 俺たちは力じゃ負けるんだ、地形を読み、相手の裏をかいて戦術で勝つ。


 ───その為には下見だ。


 俺は森の中を隈なく探索するのだった。





「あ、ウェンディ先輩」


「君もか?」


 偵察を終え、街に戻ろうと森を抜けたところで幼女と遭遇した。


「バウディ君、戦場視察とは分かってるじゃないか」


「行き当たりばったりでは流石に戦えないですよ‥‥‥」


「フフフ、『戦場を知る者は勝利を知る』だね」


 ニヤリと笑う幼女。


「なんか有りそうで無さそうな、ありがたい言葉ですね。誰の名言です? グレイあたりですか?」


「今、即興で私が考えた。メモしといてもいいぞ」


「‥‥‥あっそ」


 



「そっちの戦場はどうでした?」


「うん、中央に川があってね、そこの河原が主戦場ってところかな」


「こっちは中央に開けた草原がありました。どっちも同じような感じですね」


「野戦で森の中とはいえ、一応向き合って戦える場所を見つけて会場にしてるらしいからね」


「感じはどうでした?」


「フフフ、君とマナ・グランド相手じゃないからね。地形もわかったし余裕だよ」


 ちなみに俺とウェンディ先輩は一回戦では戦わない。

 

「俺も頑張ります!」


「うん。君と戦えるのを楽しみにしてるからね」


「‥‥‥それは、無理かもしれませんね」


「うまくいけば、決勝で会えるね」


「ウェンディ先輩の前に、準決勝でマナですから‥‥‥。いや、そもそも、一回戦すらまだ勝ってないんで、一戦一戦慎重に頑張ります!」


「校庭での砦戦でマナ・グランドと戦うのは正直辛いね。まだ野営戦で当たった方が楽だったかもね‥‥‥」


 うーん、やはりマナに勝つのは無理かもな‥‥‥。

 籠城でもするかな‥‥‥。


「よし、一回戦は明日ですね。お互い早く帰って休みましょう!」


「うん。では明日健闘を祈ってるよ」


「ウェンディ先輩も頑張ってください」


「あ! そうそう、聞こうと思ってたのに忘れるところだった。あの本読んでくれたかい?」


「‥‥‥あの本?」


 ‥‥‥嫌な予感。


「『精霊との交信』だよ」


 やっぱり。

 なんで今言うかね。

 明日大事な日ですよ?


「‥‥‥いや、まだです」


「よし、明日一回戦が終わったら部屋に顔を出してくれよ。お互いの戦勝祝いを兼ねて、ちょっと話し合おうじゃないか」


「‥‥‥はい」


 ずっと誤魔化して引き伸ばしてたツケがこんな大事な時に‥‥‥。

 ‥‥‥まあ、いいか。

 明日はウェンディ先輩がどんな作戦で戦ったか、確認したい気分ではあるしな。


 俺はウェンディ先輩と街に入る手前で別れて帰路についた。







「カ・イ・ト!」


「‥‥‥どうしたの?」


 家に帰るとニコニコと笑う美女が出迎えてくれた。


「明日、頑張ってね!」


「マナも‥‥‥あ、そうか、マナのクラスはシードで明日戦わないんだっけ」


「私は明日休みよ。カイトの応援してるね!」


「応援って言っても、野営戦だからどこからも見えないよ?」


「‥‥‥そうよね。いっそ事務クラスに入っちゃおうかしら」


「反則負けしちゃうな」


「本当に一緒に戦えたらいいのに‥‥‥。今日は早く寝て明日に備えましょう!」


「そうね」


「今日は私が抱っこして寝てあげるね! なんたって明日はカイトの初陣なんだから!」


「‥‥‥それ、いつもと変わんない」


 マナに連れられ強引に家に入らされた俺は、家の影から父上が凄い顔で此方を見ているのに気づかなかった。

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