9、授業サボってゲームですって?!
「くそっ‥‥‥もう一回お願いします!」
屋上に植えられた木の影。
昼休みはとっくに終わってしまっていたのだが、俺とウェンディ・ノースは未だに『王様ゲーム』を楽しんでいた。
授業は完全にサボりです。
「フフフ、いいだろう」
何度も対戦してわかったが、ウェンディ・ノースは『王様ゲーム』が恐ろしく強い。
俺が考えうる色々な攻め方を試してみたが、全て軽くいなされ完封されていた。
「じゃあ、次はこんな感じで‥‥‥」
紙の上に置かれた駒を移動させる。
「ふむ、面白い手だ。‥‥‥だけど、君の作戦は攻めに凝り固まり過ぎる傾向があるね」
「‥‥‥と、言いますと?」
「色々と試してるみたいだけど、総じて一辺倒。そして兵を
「‥‥‥はぁ」
攻めて何が悪いのだろうか‥‥‥。
この人の言う兵とは駒のことだ。
駒を蔑ろって王を打つために駒を相手に取られるのは、ある程度仕方ないと思うんだけど‥‥‥。
「兵というのは、もっと自由じゃなきゃダメ。そして雑に扱うと兵は付いて来ない。だから流動的な相手に足元を
コトッ。
ウェンディ・ノースの置いた駒。
お見事‥‥‥手詰まりです。
「‥‥‥負けました」
「フフフ、これで私の10連勝だ」
「くそっ、強い‥‥‥」
俺のプライドは粉々である。
‥‥‥しかし、何故だか嫌な気分ではなかった。
俺はウェンディ・ノースを尊敬し始めている自分がいる事に気づいている。
初めはいけすかない幼女と思っていたのだが、この人は本当に凄い。
どう攻めてもヒラヒラと交わされ、気付くとこちらが負けていた。
たかがゲームと言ってしまえばそれまでなのだが、上手く言えないが彼女は次元が違う。
「バウディ君は私が今まで見てきた中で、おそらく一番強い。攻め方も豊富だし、戦っているとワクワクするぞ」
「‥‥‥あれ? 俺の名前、教えてましたっけ?」
「君はマナ・グランドの腰巾着として有名人だからね」
「‥‥‥そりゃどうも」
『腰巾着君』から昇格して名前を呼ばれるようになりました。
「それだけの才能がありながら、何故マナ・グランドに付き纏う?」
「‥‥‥別に付き纏ってませんから。こっちにも色々あるんです」
やはり世間一般では、俺がマナのヒモという認識なようです。
まあ、そりゃそうか。
「まあ、それはいいとしてだ、君は何故兵法を学ばない? おそらく全て我流だろ? 折角の才も無駄にする人間はアホと同じだぞ」
『王様ゲーム』と兵法、やっぱり繋がるところがあるのかな?
「俺だって学びたいんですけど、事務クラスに兵法の授業がなくて‥‥‥」
「モスグリーン王国は私達『文官』がしゃしゃり出るのを嫌がるからね。わざと授業から外してるんだろう。しかしだ、そんなのはただの言い訳に過ぎない!」
「‥‥‥はぁ」
熱弁を始めるウェンディ・ノース。
「バウディ君、学べる環境じゃないからって諦める人間は私は好きではない! 数は少なく、手に入り難いが、ここの図書室にだって兵法の書はあるじゃないか‥‥‥何故自分から動き出さない?! 何故自分の才能を無駄にしようとする?!」
「‥‥‥あの‥‥‥だから、貴方が図書室から借りられてる本を早く返却して欲しいんですけど」
その数が少なく、手に入り難い『兵法の書』を独占してるのは貴方でしょ‥‥‥。
「‥‥‥あれ? えっと、君は私のところに何しに来たんだっけ?」
「『グレイの兵法』を返却してもらう為の直談判です」
ゴソゴソと鞄から一冊の本を取り出し、俺の方に差し出すウェンディ・ノース。
「持って行け。そしてしっかり学ぶんだバウディ君。君には才能がある、私が保証するよ」
差し出された本を、そっと幼女に押し返す俺。
「先に図書室に返却でしょ‥‥‥。あと、ちゃんと司書さんに謝りましょうね」
「‥‥‥はい」
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