6、よし、決めた!



「カイト‥‥‥さん、えっともしよろしければ、昨日さくじつの件のご説明を‥‥‥」


「なんだよ、その変な話し方‥‥‥」


 登校し、席に着いた俺に話しかけてきたのは、赤髪のラール。


「俺の頭は、まだ混乱している」


「‥‥‥なんかごめん」


 昨日は食堂での出来事の後、普通に授業を受けたのだが、ラールもサラも特に何も聞いてこなかった。

 というか、会話すらしてない。

 

「‥‥‥俺の方こそ、すまん。なんて話せば良いのかわからなかった」


 何故ラールが謝る。

 コイツは本当にいい奴だな‥‥‥。

 ラールと出会えただけでも、この学園に入って良かったと思える。


「マナとは、その‥‥‥幼馴染みたいなもんなんだ‥‥‥黙ってて悪かった」


「‥‥‥え?! 呼び捨てしちゃう感じの仲なのか?!」


「うん、まあ‥‥‥」


「‥‥‥カイト、俺は今までに経験したことがないほどの憎悪と、殺意が自分の中で芽生え出したのを感じるぞ」


 前言撤回。


「‥‥‥殺さないでよ」


「だぁー! 羨ましい!」


 その後、結構な間、頭を叩かれたりはしたが‥‥‥まあ、たぶんラールはいい奴。







「‥‥‥昨日はごめん。配慮不足だったよ、食堂であんな事になっちゃって‥‥‥」


 午前の授業が終わり、昼休み。

 サラが話しかけてきてくれた。

 

「カイト君が守ってくれたし私は大丈夫だから‥‥‥むしろ、怪我は大丈夫?」


「アレは血じゃないから‥‥‥」


 貴方が食べてたパスタのソースです。


「怪我してないなら良かった!」


「色々ごめん」


「謝らないで、私は何も思ってないから。‥‥‥でもカイト君凄いよね、マナ・グランドさんと幼馴染だったんだね」


 幼馴染なだけで凄いと言われるマナの存在が凄い。


「凄いのはアイツで、俺は戦闘能力皆無のただの落ちこぼれだから」


「‥‥‥そんなことない。そんな恵まれない体格なのに、めげずに勉学に励んだカイト君は立派だと思う!」


 恵まれない『そんな』とは、どんな体格でしょう?

 ‥‥‥慰められてるのになんか胸に刺さるぞ‥‥‥。

 

「ありがとう、サラ」


「どういたしまして!」


 サラは少し変わってる所があるが、このも凄く良い人だと思う。


「俺は前からマナ・グランドの凄えファンなんだ、ただただカイトが憎い!」


 横にいたラール。

 ‥‥‥凄えファンなんだ。


「幼馴染って事はさ、家が近かったりするんだろ? もしかしてカイトの家に遊びに行ったら、運が良ければ俺もワンチャンお近づきになれちゃったりする?」


 ラール達に流石に一緒に住んでるとは話してない。

 遊びに来る家に本人が居てますけど‥‥‥。


「食堂とかで会った時に話しかければ良いじゃないか」


 まあ、マナはあまり食堂などは利用しないようで、昨日会ったのはかなりレアケースなのだが。


「これだから恵まれた人間は嫌なんだ! カイトは何もわかっちゃいない、あの神々しさを前にして話しかけれるわけないだろ!」


 今度は恵まれた人間になりました。


「確かにマナ・グランドさんに話しかけるなんて、恐れ多いよね‥‥‥私たち事務クラスの人間だと特に‥‥‥」


「頼むカイト! 今日お前の家に行かせてくれ! なんなら俺は毎日行きたい! 」


 無理です。


「えっと、ウチの家ちょっと複雑なんだ‥‥‥」


「そこをなんとか!」


「‥‥‥わかった、今度学園で会った時に機会があれば紹介するから」


「本当か?! カイト、俺はお前が大好きだ!」


 大袈裟な‥‥‥。


「‥‥‥あの、カイト君!」


 赤い顔でサラ。


「まさかサラも?!」


「あの‥‥‥弟が大ファンなの、もしご迷惑じゃなければ、その‥‥‥マナ・グランドさんにサインを頂けないかなって‥‥‥」


 弟もか。


「‥‥‥わかった、聞いておくよ」


「ありがとうカイト君!」


 ‥‥‥アイツ、サインなんてあんのかな?


「よし、そうと決まれば食堂行こうぜ!」


「え? 今から?」


「善は急げだろ?」


 ‥‥‥どうしよう。

 実はマナとは昨日の帰り道以来会話してなかったりする‥‥‥。

 家での食事中も俺とは目を合わせようとしなかったし、こんな事は初めてなのだが昨晩は一緒に寝ていない。

 いつもなら適当な時間になると勝手に部屋に来て、俺のベッドでゴロゴロしだすのだが、待てど暮らせどマナは来なかった。

 心配になり呼びに行こうかとも思ったが『一緒に寝ようぜ』なんて声をかけれるわけもなく、昨日俺は物凄く久しぶりに一人で就寝している。

 いつもはマナから強引に来るからなんかそうなっているが、俺たちのやってる行動は異常なんだなと改めて考えさせられた。

 逆にソワソワしてほとんど寝れなかったのは秘密にしておこう。


「‥‥‥昨日あんな事があったわけだし、今日は食堂やめとかないか?」


「カイトらしくないぞ! 他のクラスの奴にビビってどうすんだ!」


 素直に喧嘩してるって言うか?

 いや、喧嘩する仲なのか、なんて言われるのもどうかと思うし‥‥‥。

 あ、そうか! いっそ嫌われて絶縁されましたって言えば今後も安泰なんじゃないか?


 ───完璧だ、それで行こう!

 

 作戦が決まり、ラールとサラの方に目をやると、二人とも青い顔をしている事に気付いた。


「‥‥‥カイト、ヤバい」


「‥‥‥綺麗‥‥‥」


 2人の視線は俺の後方すぐ側。

 周りを見渡すと、教室中の人間も静まり返って俺の後ろを見ている。

 ‥‥‥凄く嫌な予感がするな。


「カイト、今日も食堂行くんでしょ? ご飯一緒に食べよ」


 すぐ後ろから透き通る綺麗な声。


「マ、マナ・グランド!」


 振り向くより先にラールの声で誰が後ろに居るのかわかった。

 なんで来んだよ‥‥‥。







「はじめまして‥‥‥じゃないか、昨日少し会ってるわね。貴方達はカイトのご学友よね。貴方はラール君でしょ、頭がいいのに運動神経も凄いって聞いてるわ」


 ニコリと笑いラールを見るマナ。


「‥‥‥マナ・グランドが! マナ・グランドが俺の名前を! 死んでもいい! 俺は今日死んでもいいぞ!」


 あんなに話したがってたのに、もはや会話になってない。

 お前が大物になるかもしれないと思っていた事を、俺は今激しく後悔しているぞ‥‥‥。


「貴方のお名前も聞いてもいいかな?」


「は、はい! サ、サラです! 私はサラと言います!」


 サラの顔は真っ赤だ。


「そう、サラちゃんって言うの。カイトと仲良くしてくれてありがとうね」


 ザワザワとした異様な雰囲気の中、食堂の席に座る事務クラスの人間とマナ・グランド。

 目立って仕方がない‥‥‥。



「‥‥‥なんで来たんだよ」


 横に座るマナにだけ聞こえるように小声で耳打ち。


「どうせバレてんだから良いでしょ」


 マナも小声。


「‥‥‥だからって‥‥‥」


「私ね昨日寝ないでいっぱい考えたの」


「‥‥‥」


「それで決めたの。ウジウジしてる暇があるなら前進しようって」


「‥‥‥前進?」


「私はカイトが居ないと生きていけないんだから、今日からは本気で行くわ」



 ‥‥‥どこ行くの?

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