5、デレデレしてんじゃねぇよ!
「どうせいつかバレてたんだから、諦めも肝心よ」
「全然反省してないじゃん」
「私は虫の居所が悪かったの。アイツも運がなかったわね」
学園からの帰り道。
2人で歩く俺とマナ。
イライラしてたからヤッたって、どこの犯罪者だよ‥‥‥。
「自分の精神状態に左右されて冷静さを失ってるようじゃ、いい将軍になれないよ?」
ちなみに投げ飛ばされた彼に大した怪我はなかったようだ。
流石は国のトップクラスのエリート、身体が丈夫。
本人は目覚めた時に、マナ・グランドに投げられた事を大喜びしていたらしい‥‥‥マゾっ子かな?
「‥‥‥わかってるわよ。カイトだってあんな可愛い
「イチャイチャしてない。‥‥‥けど、少し反省はしてる」
士官学校の男女比率を考えていなかった俺も悪かったかもしれない。
食堂でランチくらい普通なのだろうが、そもそも俺たちは事務クラス、普通は通用しない。
「女の子の友達が出来たからって、舞い上がってデレデレしてたカイトが全部悪い」
「別に舞い上がってないし、なんで俺が全部悪いんだよ‥‥‥反省するところはあるけど、ただ食堂でご飯を食べてただけなんだから」
「今まで女の子の友達なんていなかったじゃない」
確かにマナ以外の女の子と仲良くなった事は数えるほどしか‥‥‥。
‥‥‥あれ?
なんで俺が責められてんだ?
「‥‥‥悪かったなモテなくて」
貴方とは違うんです。
「しかも、血が出てるように見えたんだもん‥‥‥」
‥‥‥トマトソースです。
「自分の立場を考えてだな、もう少し熟考して欲しかった‥‥‥。これで俺の安泰な学園生活は終わった」
「カイトは私が守るって言ってんでしょ」
前を歩いていたマナが、振り返って真剣な目で此方を見ている。
───そう、これが嫌なんだ‥‥‥。
士官学校に通う事が決まってから、俺はマナにあるお願いをしていた。
───他人の振り。
数年前まで、俺達は家の近くの同じ学校に通っていたわけなのだが、その当時俺はかなり惨めな思いを経験していた。
マナはとにかく目立つし、これでもかってくらいモテる。
俺みたいに存在感が薄くめちゃくちゃ戦闘能力の低いチビがマナと仲良く話してると、そりゃもう物凄く目をつけられるわけだ。
図体のデカイ人に絡まれるわ、陰湿な嫌がらせを受けるわで毎日大変だった。
まあ、毎度今日みたいにマナが助けにきてくれてたんだけど‥‥‥。
そして、今回は以前とは訳が違う。
彼女はただの綺麗な女の子から、国民的英雄の美女にクラスチェンジしてしまっていた。
しかも、士官学校には国を代表する屈強な猛者ばかり‥‥‥俺、殺されたりするんじゃないか?
「そもそも、私の知り合いだって言っとけば、誰もちょっかい出してこないわよ」
‥‥‥確かに食堂での事件後、ヒソヒソとコッチを向いて話す者は多数いたが、絡んでくる者はいなかった。
俺が考えているよりも、マナ・グランドはとんでもない存在になっているのかもしれないな‥‥‥。
「そうかもしれないけど‥‥‥」
「だったら秘密にする理由って何よ? ただ他の女の子とイチャイチャしたいから、私が邪魔なだけでしょ‥‥‥カイトのアホ」
そう言うと、マナは走って先に行ってしまった。
「‥‥‥だから、なんで俺が怒られてるんだよ」
マナには言ってないが、関係を秘密にしたい理由はもう一つあった。
小さい頃から何をやってもパーフェクトなマナ。
小さい頃から何も出来ない俺。
そして、出会った頃は同じくらいだったはずなのにどんどん離されていく身長。
この国では力のない人間は、ただの落ちこぼれでしかない。
彼女と違い、俺には幼い頃から何もなかった‥‥‥。
正直、塞ぎ込んでいた時期もある。
───だが、今は違う。
俺は勉学という武器を手に入れたんだ。
ここモスグリーン王国ではかなり蔑ろにされてはいるが、何もなかったあの頃より何百倍もマシ。
士官学校に入る為、周りに何を言われようと、死に物狂いで勉強した。
───俺は、これでやれるとこまでやってやる。
独り立ちするためという意思も込めて、関係を内緒にしてもらいたかったんだ。
マナが近くにいるとどうしても助けられてしまう。
守れる人間になろうなんて思ってない。
せめて守られなくても、大丈夫な男になりたい。
「‥‥‥なんて、本人には言いたくないし‥‥‥」
マナに置いて行かれた俺は、夕暮れに染まる農村地帯を家に向かってゆっくり歩き始めるのだった。
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