新入生オリエンテーション

「新入生オリエンテーションは以上です。」

丸西エスエス芸術専門学校のA棟教室で、教務主任が新入生にオリエンテーションをやっている。

「あ、そうだ。うちの学校のB棟604室の話ですが、」

教務主任はメガネを触って、

「あれは多分、もう噂を聞いた人はいるでしょうが、嘘ですね。B棟は、隣のビルですね。そこの604室は確かにずっと鍵かけていて、利用禁止ですが、あれは設備の問題で、別に事件とか発生したことないです。」

教務主任は頭を上げて、学生の様子を確認した。

「まあ、夜になると604室の周りを徘徊することもオススメしないですが、あれも設備の問題ですよ。もし機械の故障とかで怪我をさせたら、こっちも面倒なので、皆さん604室を普通に無視して、学校生活を送ってください。」

学生がざわついている。


「はい、はい」教務主任が咳払して、

「じゃ何か質問ありますか?」


1人の学生が手を上げて。


「はい、君」


「あの、卒業生のショートムービー『エスエス学校604室怪談』の試写会チケットは、もらえますか?」とその学生が聞いた。


「あ、あれですね」教務主任は誇張的に眉をひそめて、

「チケットは教務課に行ってもらえます。学生証を提示すれば1人1枚ですよ。今あまり残っていないから。ではオリエンテーションはここまで。皆さん有意義な2年間を送ってください。」


教務主任は2階のオフィスに戻る。校長室を通るとき、ちょうど校長先生とバッタリ会った。

「オリエンテーションですか?」と校長先生が言った。

「はい、今終わりました。」と教務主任。

「604室の怪談は今年も効きますか?」と校長先生が聞いた。

「うまく行っているようですね。」と教務主任が。


「そうですか」校長先生はB棟の方向を向いて眺めて、「学生募集が苦しくて閉校しそうなとき、この怪談を作ってばらまいたが、本当にこれで功を奏したとは思わなかったよ。これで、しばらく学校は潰れることはないかな。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る