第61話 敵の目的は?

 観光案内所の扉を開けて入って来たのは、2メートル近い身長を持ったガタイのいい魚人の男だった。その腕には小さな魚人の女の子を抱えている。


 男が入って来た時に言った内容は、娘が父親が飲むはずだった薬とやらを飲んでしまい死にかけているという事だった。だが、それでなぜ町長を探しているのだろうか。

 その薬とやらが医者ではなく町長に渡された物だとすれば、それは薬ではなくあの時見た毒という事も考えられる。


 さて、それはそれとして俺はここからどうするべきか。ここにずっと隠れているわけにはいかないし、やるべき事は魚人の親子の相手ではなく敵のアジトに潜入する事なのんだけどなぁ。


 こういうのはどうだろう。あの魚人の男は少なくとも町長がここに居ることは知っていた、という事はアジトへの入り方を知っているかもしれない、ならば俺があの子を助ける代わりにアジトへの入り方を聞くと言うのは。

 いいかもしれない。親なら子の為に何でもするだろうからな。


「こんばんは」

「誰だ!」


 俺は柱の陰からスッと出ると、必死に町長を呼んでいる魚人の男に話しかけた。


「俺は観光客さ」

「観光客だと?」

「ああ、そうだよ。観光客が観光案内所に居るのは普通だろ? ところでそっちの子随分苦しそうだな、良かったら俺が診てやろうか?」


 どう考えても怪しい若造だ、こんなので大事な娘を診せようとするやつはいないだろう。だが、話のきっかけにはなる。どうにかしてこの男に信用させてアジトの入り口を開けてもらわなくてはならない。


「お前のような怪しい奴に診せるわけないだろ!」


 ほらな。だが対策はちゃんとある。


「けどそっちの娘さん、見たところ早く治療しないと手遅れになるぞ。せめて応急処置ぐらいはしといた方が良いと思うがね」

「そ、それは……」

「まあ、どうしても嫌と言うなら俺はこの辺で。観光案内所にも誰も居ないようだし、これじゃあ自分で歩いて周った方が早い」


 こう言っておけばこの男も俺に診せないわけにはいかなくなる。もしかしたらここで俺に診せなければ娘が死んでしまうかもしれないからだ。

 それに俺が言ってることもあながち嘘じゃない、もう娘さんの体は光始めている。このままだと全身に回ってすぐに死んでしまうだろう。子供なので体が小さい分回りが早いのかもしれない。


「それじゃあ失礼」


 そう一礼して横をすり抜けようとすると、咄嗟に腕を掴まれた。


「ま、待ってくれ! お願いだ、娘を診てやってくれ! 頼む!」

「良いでしょう。但しただでは治療できない」

「何が欲しい? 金か?」

「金何て要りません、その代わり治療がすんだら俺の聞きたいことを教えてもらいます。良いですね?」

「ああ、そんな事でいいなら何でも聞いてくれ!」

「よろしい」


 俺がこの子を治療できるかという話なら問題ないと言っておく。何故ならこの毒は特徴がハッキリしているからだ。俺の能力は道を制するもの、つまりはこの子の血管を道と見立てて血液中の毒素を一点にまとめ、そこから吐き出させてしまえばいいのだ。


 この毒は口から取り入れるタイプなのに、毒として機能し始めるのは血管に入ってしまってからだ。これは船であの魚人を診察していた医者の先生に聞いたので間違いない。

 子供を適当な台の上に寝かせ、その上から手をかざして目を瞑る。するとまるで瞼の裏に映像が映し出されているかのように血管の内部が見えて来た。血流の速さを無視したスピードでザッと内部を見て回った所、一番毒が多いのは心臓、次に肺だった。その毒を体を何周もしながら道に存在する邪魔なものを排除する機能を使って集めて行く。


「この子は右利き? それとも左?」

「右だ」

「了解。じゃあ左だな」


 毒を集めて捨てるのは左腕に決定した。後は一点に集めたところに小さな切り傷を作り、そこから排出するだけだ。


「今からお嬢さんの左腕に小さな切り傷を作ります。これは血管中の毒を外に出す為です。良いですね?」

「あ、ああ。それで助かるんならやってくれ!」

「分かりました」


 親の了承を得たところでいよいよ排出作業開始だ。と言ってもやる事は簡単で、傷口に毒を集めるだけだ。後は勝手に血と一緒に出て行ってくれるだろう。


「よし、毒が出て来た。血も多少出ているが、これぐらいなら問題ないだろう」


 あとは毒が出てしまえば後は能力で血管を作りなおせば完了だ。と言っても全部ではなく、ある程度は自然治癒に任せるけどね。


「娘は、娘は大丈夫なのか?」

「ええ、ある程度の毒は抜けましたので。ただ、まだ体内の毒が完全に抜けきったわけじゃないので、専門のお医者さんに診せた方が良いでしょう」

「そうか、良かった。しかし、なぜ娘の体から毒なんかが出てくるんだ? 娘が飲んだのは私に処方された薬だぞ」


 なるほどこの言動。その薬とやらがどんなものなのか処方した人間から聞いてないようだ。てことはこの人はやっぱり敵側と言う訳じゃなさそうだな。


 毒を薬として渡す目的はなんだ? この男の人が被検体だとしても、どの程度で死亡するのかを測るのであればどこかの施設で監視するだろう、せめて建物の中とかな。それをまるで普通の薬のように渡している意味が分からない。


 それとも本当に薬として扱ってるのか? 毒ではなく、何かしらの治療のための薬として。薬も摂り過ぎると毒になるように、文量を間違えて処方したために死んでしまったとか。いや、それなら最初の人が死んだ時点で処方を辞めるはずだ。


 他に何かあっただろうか……。


 そうだ、そう言えばあの時の魚人にはもう一つ特徴があった、あのパワーだ。

 高速で泳いで来てミサイルのように突っ込んで来た時の破壊力は中々のものだった。あのパワーを得るための薬なのだとしたら……。


「分からん。直接聞こう」

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