第62話 潜入、待ち構えていた敵陣営
魚人の親子の父親の方はハンスと言うらしい。聞いてもいないのにそう名乗って来た彼は、俺の素性を一切聞かずにアジトへの侵入方法を教えてくれた。
俺はてっきり鮫のレリーフの近くに仕掛けがあるのだとばかり思っていたのだが、彼の指さした方向を見て自分のアホさに頭を抱えてしまった。なんとそこには堂々と地下室の入り口を開閉する用のレバーがあったのだ。しかも地下室開閉用レバーと書かれている。
ま、まあ、こんなあからさまだと罠の可能性が高いので疑ってしまって触れなかっただろうから、結局ハンスに聞くことになって同じ流れになっていただろうし、結果は同じだな。
「ここから先について何か知ってるか?」
「ああ、この先には部屋が3つあって、1つは資料室、もう一つは非常時の収容スペース、最後は同じく非常時に町のリーダー格が会議をする部屋がある。今日は町長から通知があって、非常事態だから住人は家に居ろと言われてたんだ。俺みたいな一部の人間には町長が今日ここの地下に居ることを知らされてた。薬を渡されてた奴らだな」
薬を渡されていた人間には自分たちの居場所を伝えていたのか。だがそれは今の状況なら情報が洩れる恐れがあるはず。何なんだ一体。
まあいい、取り敢えず地下の内部が複雑じゃないことを喜ぼう。
さて、今聞いた3つの部屋の中で一番敵が居そうなのは会議室だ。お偉いさんってのは大体会議室でふんぞり返って何時間も何も決まらない無駄な会議をするのが好きな連中だ。くだらん。
「会議室に向かおう。どっちだ?」
「まっすぐ行って突き当たりだ」
「よし。ところでなんでハンスはついて来てるんだ?」
「あれが毒だって言うなら解毒剤があるはずだ。それで完全に娘の体を治す」
「そうか、そうだったな。じゃあ行くぞ」
「おう!」
女の子を抱えたまま俺について走って来るハンス。残っている毒は少量とは言え残しておくとどんな後遺症が出るか分からないし、もし解毒薬があるなら早めに使った方が良いのは間違いない。
ただそれは奴らがあの毒を毒として認識していればの話だ。
会議室の扉を勢いよく開けて中に入る。ここまで来て慎重になってももう仕方ない。そもそもこの地下室に入った時点で誰かが入って来たという事は相手に伝わっているだろうからだ。魔法の力ってやつだな、俺自身魔元素を使えるようになっていたからレバーを引いた時に分かったんだ。
「アリス! アリーズ!」
中に入ってすぐに見えたのはライトアップされた円卓。それから俺たちが入って来た場所から対面の椅子に座っているジジイ魚人とイケメン魚人、それから人間のジジイが一人、後は誰も見えない。
「町長!」
「おお、ハンス。なぜここに来た?」
「娘があの薬を飲んでしまって死にかけたんです。あれは一体何なんですか!? なぜあんなものを俺に!?」
「そうか、それはすまない事をした。君の娘さんの事は残念だ」
今の発言、薬の副作用としてどうなるかは把握しているみたいだな。子供が飲んでしまったらどうなるか分かっていないと今の言葉は出てこないだろう。
「なぜ毒など渡したんです!」
「毒? そんなもの。……私が君に与えたのは魚人の未来だよハンス」
「あれが未来か、じゃあ魚人はこの世からいなくなるな。自分も魚人のくせにイカレたジジイだ。それでアリスとアリーズはどこに居る?」
「ああ、あの2人なら今は別室で眠ってもらっているよ。いや、正確には眠らされたかな。このNo.1によって」
「なに? そいつが?」
町長の横に建っている男を見ると、腕を組んでいてみずらいが確かに白スーツの胸のあたりにNo.1と書かれていた。ただ、あのNo.8を見た後だと小さいしそこまで強そうには見えない。
「お前が何を考えているかは分かる、だがここに居るNo.1は私が改造した改造魚人の中でも最強! No.8などお遊びに思えるほどに強い!」
「その声はあの時のマッドジジイか? 人間だったんだな、しかし発言の通り見た目もちゃんとイカレてるようで安心したよ」
「ふん! ほざけ小僧。No.8に苦戦するような程度のお前は絶対にNo.1には勝てん! 精々残りの時間を楽しめ! 数分後には死体だろうからな!」
アリスとアリーズがやられているのと広場で諜報部隊全員死んでいたのも考えると、それぐらいの実力は当たり前にありそうだ。特に自分の間合いではとてつもないスピードで敵を叩き切るアリスが負けているのは、ほぼ俺に勝ち目が無いという事を意味していた。
だが、今の俺の目的は戦う事じゃなく2人を見つけ出して連れて逃げる事。最悪腕の一本ぐらいは持っていかれたとしても、逃げ切れればそれでいい。
「町長! 毒の解毒薬は!」
「言っただろう。あれは毒ではない、ゆえに解毒薬など存在しない。残念だが君の娘は死ぬ」
「貴様!」
その前に娘さんを床に寝かせたハンスは、テーブルに乗り町長を殴ろうとする。するとすかさずハンスの前に立ちはだかるNo.1。そしてNo.1は軽く左腕を横にふるうと、そこでパン! という音がしたと同時にハンスが横に吹っ飛ばされた。
しかし、腕を振るっただけ、たったそれだけであの巨体を吹っ飛ばすなんて……。
腰に剣を挿しているところから見て剣で戦うタイプだと思ったのだが、素の腕っぷしも相当やるようだなNo.1は。
「実は私たちは君を待っていた」
「なるほど、待ち構えていたってことか」
「ああそうだ。領主軍が来る前に君たちを葬ってしまうために、あの2人には君をおびき寄せるエサになってもらった。隣の部屋だ」
「何故それを言う?」
「簡単なことだ。どうせ君たち3人がかりでもNo.1には勝てない。最後に抗う姿を見せてくれ」
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