第56話 たった1つの対処法

『私が開発した8体の改造魚人はNo.1以外は全て期待外れだったのだが、そのNo.8だだけは不死身なせいでどうしても処分することが出来なかった。しかし今ではあの時処分せず良かったと思っているよ。素晴らしい!』


 相変わらずスピーカーから聞こえてくるマッドサイエンティストのジジイの声をBGMに、俺は復活して来たNo.8ととの戦闘を再開していた。


 復活したら強くなるとか言う事は無いのでまだ野菜星人よりはましだが、その代わり弱りもしない。

 対する俺は最早反撃することも出来ず、避けたり防いだりで精一杯の状況だ。


 最後まで諦めるつもりは毛頭ないが、実際問題として俺がここを突破するのはかなり難しいだろう。となると、未だに城の鉄格子を壊そうとしているアリスには俺を置いて行ってもらうのが最善だ。さんざん言って来たが頑固な性格で諦めようとしないアイツにも、もう本当に俺を置いて行ってもらわなくてはならない時が来た。


 攻撃を避け、時には受け流しながら城の方へと近づいて行く。


「アリス、まだそんな所に居たのか。お前は早くアリーズを追え。おそらくアイツは裏でこの町の上層部と繋がっている」

「何!? いや、しかしお前を置いて行くわけにはいかんだろ!」

「俺の事は大丈夫だ。こっちで何とかして見せるさ」

「だがお前はもうボロボロではないか! そんな体で意地を張っていても!」


 まったく本当に頭の固いやつだ。


「アリス! お前は何だ! ポティート領の騎士では無いのか! 今お前が行かなければこの先お前が守るべき民が犠牲になるんだぞ!」

「っ! そ、それは、しかし!」

「ぐっ! アリス。俺はお前を誰よりも信用している。まだ日は浅いが共に伝説と戦った仲間であり、相棒だと思っている! お前ももしそう思ってくれているなら……俺を信じろ!」


 そう言うとアリスは鉄格子を叩くのをやめて黙り込んだ。

 元々伯爵様からどういう理由で俺の専属騎士にされたかは分からないが、おそらく俺のスキルを目の当たりにして野放しにしておけず、監視として付けたのだと俺は思っている。そこにアリス自身の感情があったかは不明だが、アリスが俺の思う通りの人間なら……。


「! わ、私は……私もそうだ! お前を仲間と、相棒だと思っている! だから、だから私もお前を、アレンを信じる!」

「ふっ、ならば行け相棒! この町の民のために、前を向いて走れ!」

「ああ!」


 やっと行ったか。手間かけさせやがって、困った相棒だなほんと。

 伯爵様、アイツは監視役には向いてませんよ。少なくとももっと要領よく柔軟な考え方が出来ないと駄目です。アイツは一直線すぎる。


 まあでも、俺には直撃コースだったかな。


「さて、いつまでもお前にかまってられないんで。ここらでいっちょ決着つけましょようか。No8さんよ」

『茶番は終わったか』

「うるせえよクソマッド。お前も覚悟しとけ、コイツを片付けたら次はお前の所に行ってやる」

『ふん、出来もしないことを言いよるわ。弱い人間は良く吠えると言うが、まさにお前にピッタリの言葉だな』


 マッドジジイの言う弱いという部分は、悔しいが認めざるを得ない。実際俺は弱い。威力は高くても肝心の槍の扱いがまだまだ素人中の素人だからな。だが、俺がNo.8を倒せないと言うのは半分間違っている。確かに俺ではこの不死身のエイトを倒すことは出来ない。だが行動不能にすることは出来る筈だ。


 マッドジジイが冒頭で言っていた言葉を思い出して欲しい。やつはこう言った。

 『No.8は不死身なせいで処分することが出来なかった』。そしてその言葉から、実際にこのNo.8が俺の前に初めて姿を現した時の状況を思い出してみると、黒い箱から漂う白い煙のようなものがあった。


 つまりこういう事だ。

 『このNo.8は不死身ゆえに処分すことはできなかった。そのため無差別に暴れまわり意味のない破壊を繰り返すコイツをマッドジジイは冷凍して箱に詰めておくことにした』

 そう、冷凍だ。そして奇しくも俺の第2属性は氷。


 正直これは一種の賭けだ。だがもうこれしか方法が無いのなら、やる事はもう決まっている。


「……」


 まずは集中だ。初めて氷を主として魔装を纏うし、氷が第2属性という事もあって雷よりも集中力が要る。

 もし修行中ならこう言う時は目を瞑って集中するのだが、今は戦闘中の為そうはいかない。しかし、体がボロボロでいい感じに力が抜けているからか、思ったよりすんなりと集中モードに入ることが出来た。


 No.8に向けたレンコンの青い刃先に白い霜のようなものが付着し始めた。マッドジジイには音声しか届いていないようで、俺が黙りこくって何をしているのかと騒いでいるが、そんなの今はどうでもいい。


 やがてレンコンはその刃先と柄の三分の一程を真っ白に凍らせた。凍った部分からは冷気が空気中の水分を凍らせたために白い霧が吹き出すように発生している。


「さて、ここまで散々ボロカスにしてくれてありがとよNo.8。だが、こっからは反撃の時間だ。お前を冷たい海の底に叩き落してやる!」


 そう言って俺はレンコンを半回転し、地面に刃を突き立てた。

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