第51話 再び海へ

 『レンコン』と言う名のカッコイイ槍を受け取り、隠密部隊10人を加えた合計13人で南門へ向かった俺たちは、師匠といぬを回収して『ランドシータウン』へと急いでいた。

 ここからまた約2時間、その間にまた槍の修行だ。


「師匠、新しい槍を貰って来たんで、修行の続きをお願いします」

「いや、そんなもん後じゃ後! それよりまさかアリーズちゃんが一緒に来とるとは! アリーズちゃ~ん!」

「えっ」


 新しい槍が貰えたら後の2時間も修行を付けてくれるという話だったのに、師匠は新しく行動を共にすることになったアリーズの下へと飛んで行ってしまった。

 俺に槍の修行をつけてくれていた時とは目の色が全く違う。これじゃあただのスケベジジイだ。


「いやん! おじいちゃん、私おおじいちゃんは趣味じゃないのよ!」

「そんなこと言わずに、ちょっとだけじゃから、ぐふふっ」

「いや~っ!」


 槍を教えている時は伸びきっていた背筋を丸め、だらしない顔でアリーズを追いかける師匠。逃げるアリーズは本当に師匠に触られるのが嫌なのか、一生懸命に逃げている。


 そう言えば師匠、俺たちと一緒に海中テーマパークに来た理由がピチピチのねえちゃんに会う事だとか言ってたな。ムーに傷をつけられるほどの槍の技を教えてくれるというのですっかり忘れていた。


 連れて来た諜報隠密部隊の10人とアリスは、その光景を見て呆れた顔をしている。ということはこの光景はわりと毎度のことなのだろう。


 こんなジジイに槍を教わっていて良いのだろうか……。いやいや、それでもあの技は凄いものだった。変態だろうがスケベだろうが俺の槍の師匠には変わりないんだ、教えてもらう以上は尊敬の念を込めて言葉遣いはきちんとしないと。

 

 でも1つだけ気になることがある。まさかとは思うが、それだけアリスに聞いておこう。


「なあアリス。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「お前、俺の修行を付けてくれるように師匠に頼んだんだろ? その時に何か条件とか出されたか?」

「ああ、確か一緒に風呂に入るとか、ツンツンさせるようにとか言われたと思うが。それがどうかしたか?」

「……」


 あのクソジジイ!!


 『レンコン』を持って未だにアリーズを追いかけまわしているジジイの背後に忍び寄る。ここは狭い空間なので相手が速く動いているとは言っても、だらしなくエロいことしか考えていないような奴なら背後を取るのは簡単だ。


「おい、ジジイ」

「え?」

「天誅!」

「あんぎゃーッッ!!!??」



 3つ目の山を潜り視界が開けると、そこには真っ青な海が太陽光に照らされてキラキラと輝いていた。時刻はそろそろ夕方に差し掛かり、もうすぐ夕暮れ時の綺麗な景色がみられることだろう。


 ジジイに天誅を下し、アリーズに感謝の言葉と共に詰め寄られたところをアリスに助けてもらった後、俺は自己流で槍の訓練をしながら『ランドシータウン』へ到着するのを待っていた。

 訓練と言っても変な癖がつくのは嫌だったので、やったことは前の2時間と変わらず突きだけだ。だがジジイの言った通り俺は筋が良いのかこの短期間でも中々成果が得られたような気がしている。


 ここからは町に着いてからの行動についての話し合いだ。もう後10分もせずに町に到着する。町の地図は伯爵様に借りてきているので、到着するまでにそれを見ながら全員がどう行動するかを決めなければならない。


「私たち諜報隠密部隊のメンバーは町中を担当するわ、こういう事にはコツが要るからね。アレン君とアリスは顔も知られてちゃってるでしょうし」

「それは賛成するが、では私たちはどうすればいい? まさか町の外に待機か?」

「いいえ、それは時間がもったいないわ。町中は無理でもパーク内ならまだ動きやすいはずよ。確かアレン君のスキルには空を飛ぶものもあるのよね?」

「ん? ああ、あるけど……」

「じゃあそれを使ってパーク行の船に乗り込みましょう! おじいちゃんは気絶しているからワンちゃんとここでお留守番ね」

「お前も一緒に来るのか?」

「ええ、1人くらいは貴方たちに付いていた方が良いでしょ?」


 ジジイを置いて行くのは良いとして、いぬもここに残すのか。コイツは一応予備戦力として連れている面もあるので、出来れば一緒に行動したかったが……。

 まあ仕方ない。気絶したジジイを人質にとられるという事も万が一無いとも限らないしな。と言うかこのジジイはいつまで気絶してんだよ。


 話し合いが終わった直後、俺たちは『ランドシータウン』入り口の派手なアーチ型の町門近くにある岩陰へと到着した。

 ここからはそれぞれ別行動だ。

 アリーズが部隊員たちに何かを言うと、10人が一斉に岩陰から飛び出す。それを追ってパッと顔を上げてみると、そこにはもう彼らの姿は無かった。なんて素早い。


「さあ、私たちも船へと向かいましょう」

「そうだな。それじゃあいぬ、ジジイの事を頼んだぞ」

「ワン!」


 ジジイといぬをその場に残して俺、アリス、アリーズの3人でエアロードに乗って飛び上がる。


 下から見えないように出来るだけ上空へと向かうと、海から吹いて来る風が強くなり磯の香りが鼻をくすぐってきた。


「船は見えるか!」

「ああ、どうやら今は上にあるらしい。今なら乗り込めるぞ!」

「急いだ方が良いみたいよ! 水壁門が開いていってる!」

「みたいだな! 急降下する!」


 パーク内に今回の件について関連性がある物が見つかるかどうかはあまり期待できそうにない。どう考えても証拠を隠すのであれば一番ありそうにない場所はここだろう。しかし、だからこそという可能性もある。なにはともあれまずはパーク内に入らなければ。

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