第49話 ポティート領諜報隠密部隊隊長

 トライデントのレプリカが死んで修行が出来なくなってから数十分。俺はいぬとじゃれながらポティートに着くのを待っていた。


 たった今3つ目の山のトンネルが開通し、現在高速道路はポティートに向けて時速200kmで平原を疾走中だ。


「やっと街壁が見えて来たな」


 平原より高い位置に作成されていく高速道路は、遠くを見るには最適だ。まだもう少しかかりそうだが、ポティートの町壁が見えて来ていた。

 チラッと下を見てみれば、つい3週間前に俺が村からポティートへと向かうのに使った道が見える。村はもう通り過ぎてしまっているが、父さんと母さんは元気かな。


 だんだんと近づいて来る南門の前にはまだ誰も居ないようだった。連絡したとは言え2時間では準備が終わらなかったという事なのだろう。


「アリス、門兵に話を付けて来てくれないか。俺たちが屋敷まで行った方が早そうだ」

「分かった」


 高速道路を作り終えて、俺たちはひとまず警戒されないように離れたところに待機し、アリスのみで門に向かってもらう。門兵が俺のこの能力について知っているとは思えないので、ガッツリそれを見てしまった彼への配慮だ。


「話を通して来たぞ」

「よし、それじゃあ俺たちは伯爵様の屋敷に行ってきます。師匠はどうしますか?」

「わしはここで犬と待っておるよ」

「そうですか、じゃあいぬをお願いします。行くぞアリス」

「ああ」


 商人の馬車や乗合馬車が並んでいる横を歩いて行く、今は昼時だからか行きかう人の数が多い。

 これでは歩いて向かって行ってもどれだけ掛かるかわからないので、俺たちは『エアロード』で屋敷に向かうことにした。

 あまり街中で目立つようなことはしたくないのだが、今は緊急事態なので仕方がない。


 一度屋敷の正門の前に降り立ち、巨人の血が入っているという兄弟に話しかけると、彼らはあっさりと俺たちを通してくれた。


「見ろ、アルフレッドさんだ」


 動く歩道で滑るように庭を駆け抜け、屋敷の入り口に向かっていると、アリスが階段の前にアルフレッドさんがいると伝えて来た。やはり長年剣術をやって来ただけあって、目が俺より良い。


 アルフレッドさんが待っている事は、南門の兵士が俺たちが到着したのを伝達紙か何かで伝えたという事だろう。


「お待ちしておりました。旦那様が執務室でお待ちです」

「分かりました。案内をお願いします」

「こちらへ」


 アルフレッドさんの案内のもと執務室へと向かう。もう待っているという事は、ちょうど準備が出来たのかもしれない。


「失礼致します。アレン様とアリスをお連れしました」

「入れ」

「失礼致します」


 アルフレッドさんに続いて中に入る。するとそこには巨大な椅子にどっしりと座っている伯爵様の姿があった。側にはオリヴィエ様も控えているようだ。


「おお、わざわざすまないなアレンくん。まさか休暇先でこんな事になるとは」

「いえ、構いませんよ。それより諜報隠密部隊の準備はどうですか?」


 アリスに連絡をしてもらった後、伯爵様が諜報隠密部隊とやらの準備をしてくれるらしいとの報告を受けた。確かに今回のような事にはおあつらえ向きの部隊のようだが、まさかこのポティートにそんな部隊が存在していたとは少々驚きだ。

 この国は長い間平和が続いているので諜報機関などないものと思っていたのだが、平和に見えて裏では色々とあるのかもしれない。


「時間も無いので手短に紹介しておこう。今きみの右隣に立っている人物、この者が我がポテイート領の諜報隠密部隊隊長、アリーズだ」

「え? うおっ!?」


 い、今まで誰もいなかったのにいつの間にか隣に人が立っていた。黒いフードのようなものを被った怪しげな人物だ。こんなのが近づいて来たのに気づかなかったとは。


「うふふ、初めましてアレン君、私が諜報隠密部隊隊長のアリーズよ、よろしくね」

「は、はあ」


 女だったのか、見た目だけでは全く判断できなかった。そう思っていると、アリーズと名乗った女は着ていた黒いフード付きのコートを脱ぎ捨てた。


 中から出て来たのはまだ若い女性だった。髪は青く、口元に小さな黒子がある。そして何よりその格好、抜群のスタイルをこれでもかと見せつけるような際どい水着姿は、どう見てもこの場にふさわしく無い場違い感を醸し出している。


「よ、よろしくお願いします。それにしてもすごい格好ですね」


 こんな目立った格好で諜報活動なんて出来んのか?


「彼女は鮫の魚人でな、普通の服を着ておるとその鮫肌がボロボロにしてしまうので、このような格好なのだ」

「へー、そうなんですね」


 確かによく見れば薄く笑った口に鋭利な歯が見えている。肌もどことなく少し青みがかっていて、サメの魚人だと言われればそう見えなくも無い。


「ふふっ、そうなのよ。お姉さんのお肌はとっても敏感でね、布地が多いと勝手にお肌がお洋服をボロボロにしちゃうの。でもね」

「え? あ、ちょっと!」


 いきなりアリーズが俺の手を取って両手で包み込み、自分の頬まで持っていく。


「ほらこんな風に、可愛い男の子相手ならモチモチのお肌になるのよ。スリスリ」


 そう上目遣いで言いながら、暖かいモチモチスベスベの頬に俺の手をスリスリしてくるアリーズ。ヤバい、この人ヤバい。なんかエロい。


 本当になんだかちょっとドキドキしてきた。


 た、助けてくれ!

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