第40話 なんで俺が
「一週間ぶりね、アレン」
そう言って話しかけて来たのは、同じ村の出身で元幼馴染のシエッタだった。
冒険者ギルドに居たのかそれとも散歩か何かなのか知らないが、今は一人のようだ。
俺はまだ村を出て一週間しか経っていなかった事に少々驚きながら、厚かましくも堂々と話しかけて来たこのクソッタレ女を冷めた目で見る。
「聞いてるの? 久しぶりねって言ってるのに!」
「ああ。で、何の用だ?」
「何よその態度! アレンが大活躍したって聞いたからおめでとうって言いに着てあげたのに!」
「あ、そう。ありがとね、じゃあ俺用事あるんで」
どうやら俺がムー撃退のメンバーに入っていたことは既に町中に知れ渡っているらしい。まだ帰って来て一日しか経っていないのに何でだよと思ったが、そう言えば災害級の化け物を撃退したというニュースは大々的に広めると伯爵様が言っていたのを思い出した。仕事早すぎだろ。
踵を返して歩きながらそんな事を考えていると、後ろから腕を掴まれた。誰が掴んで来たかは明らかだ。
「なんでどっか行こうとしてるのよ!」
「用事があると言った」
「私もアレンに用事があるわ!」
横を見るとアリスは俺たちが知り合いなのを察して黙っていることにしたらしく、腕を組んで俺たちを交互に見ている。足元のいぬとシンクロしてるのは何だか面白いな。だがなアリス、今は割って入って俺を逃がしてくれてもいいんだぞ。
「ねえアレン。私のパーティーに入りなさいよ!」
は? 何だこいつ。
「入らない。じゃあな」
「待ちなさいってば! 私のパーティーは皆いい人たちばかりだし、絶対アレンに損はさせないから! 今ちょうどギルドの中に居るし、紹介するから行きましょうアレン!」
こいつのパーティー? ジョージを含めた男ばっかりのパーティーだったりしてな。
まあ、どんなのでも俺には関係ないけど。
「俺はお前のパーティーに入るつもりも無いし、そもそも冒険者じゃないから入れない。おおかた俺が今回の事で活躍したから引き込みたいんだろうが、もし冒険者だったとしても俺はお前のパーティーなんかには絶対に入りたくない。いいか? 俺たちはもう別々の道を歩き始めたんだ。お前はお前で自分の道を進めよ」
「なっ! 入りたくないって、私たち約束してたじゃない! 一緒に冒険者になるって」
「おい、お前が俺を捨てたんだろうが。忘れてんじゃねえよ」
駄目だなんかもうイライラして来た。このままだと爆発しそうだ。
この粘着質な女を何とか諦めさせる方法は無いか。せめてこの場を切り抜ける方法だけでもあれば……。
ん? 待てよ。これなら行けるんじゃないか?
今日はアリスも休みで私服だし(刀は持ってるけど)、今はいぬの散歩中でちょっと雰囲気もある。何ともおあつらえ向きの状況が揃っているじゃないか。
「それにな、俺は今パートナーといぬの散歩中なんだ。お前、自分がそれを邪魔してるって分かってるか?」
「えっ? パ、パートナーってもしかして」
「ご想像の通りさ。分かったか? 分かったらさっさと俺たちを解放してくれ」
そう言うと、シエッタは何か言おうとしては止めてを繰り返すばかりで何の返事もしなくなった。バグったか。
「よし。アリス行くぞ」
「あ、ああ。だがいいのか?」
「いいに決まってる」
アリスを伴って歩き出す。
あいつが再起動する前にとっとと視界から消えておきたい。
大通りを進み適当な所で路地に入ると、そのまま2、3回角を曲がってからやっと一息ついた。
「おいアレン、さっきのは一体何だったんだ?」
「ああ、あいつは昔の顔なじみだよ。ムーの件で俺が活躍したってんで、自分のパーティーに引き込みたかったんだろ」
「そうか。まあそれもあるが、もう1つの方は? パートナーがどうとか」
「あれか、あれはあいつを諦めさせたくて咄嗟に嘘ついたんだ。悪かったな巻き込んで」
「何だそうだったのか。だが何故それで驚くんだ? 冒険者でバディを組んでいるという事だろう?」
「あ、そうね。なんでだろうね」
昨日の夜も思ったが、こいつはそっち方面に対して全く意識が無い。知識としては知ってそうだが、自分がその対象になることを全く考えていないんだ。
だから俺がベッドでアリスに締め落とされ、気絶してそのまま寝ていても、朝起きたら「何やってだお前?」ってキョトンとした顔で言われただけだった。
今日なんて休みで鎧着てないからか、俺がちょっと離れるとナンパされやがって大変だったし。
まったくなんで俺がこいつをナンパしに来た男どもを追っ払わなきゃならんのだ。
マザー、それくらいちゃんと教育しておいてくれ……。
それにしてもシエッタがこれからこの町を拠点として活動するなら、ばったり鉢合わせるなんてことが多くなるかもしれない。あー、いやだねぇ。
なるべくシエッタにもジョージにも会いたくないし、休暇でも依頼でもあまりこの町に長居しない方が良いかもしれないな。
主に俺の心の健康のために。
「よし、早速休暇の計画を立てに戻るか!」
「私も行っていいか? 暇だし」
「別にいいぞ。俺あんまり土地に詳しくないし、色々教えてくれ」
「ああ、もちろんだ!」
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