第39話 おさんぽと再会
こいつがウルフクイーンだと? 何を言ってるんだアリスは。
どっからどう見ても白くてフワフワの毛のただの子犬じゃないか。
子犬を抱えてみる。
「くーん」
確かに
つぶらな瞳に可愛いお鼻。クイーンはもっと獰猛でえげつない顔をしてたぞ。なんでこの可愛い生き物を見てあのクイーンだと思えるんだ?
「いや違うね。この子は『いぬ』だ」
「いいや違う! 私の前では変身していた! あの時の子供みたいな姿になってた!」
「ふーん。お前クイーンなのか?」
「くーん?」
いやぁ、違うだろどう見ても。ほら、何言ってんだって首をかしげてる。
「騙されるな!」
「たとえ騙されてたとしても、俺たちはもうクイーンより強い。ムーを倒した次の日の夜に俺たち2人ともレベルが馬鹿みたいに上がっただろ」
「それはそうだが、それとこれとは話が別だ! お前だっていつも気を張ってるわけじゃあるまい、隙を突かれたらどうする!」
「じゃあお前が一緒に見張ってればいいだろ。もういいか? 俺は今からこの子をおさんぽに連れて行くんだ」
「あ、おい! アレン!」
俺は昔犬を飼っていた。と言っても前世での事だ。
毎日毎日仕事ばかりで友達も彼女もなく、両親には期待もされず、価値のない人生だと思っていた。だが、そんな時1匹の犬と出会った。
この子を見ているとあの子を思い出す。
だからアリスが言う事を素直に信じようなんて思えない……。
だがまあ。
「おいアリス。一緒に来るか?」
「あ、ああ! 行かせてもらおう!」
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この町はペットを飼うには良い町だ。
あちこちにペットを散歩させるコースが作られていて、一般の通行人にも馬車にも邪魔にならないようになっているし、ペットショップの数も多くてエサにも困らない。貸し住宅のほとんどはペット可だしな。
ペットは主に犬猫だが蛇やらトカゲやら、あとはちっちゃいドラゴンとかも居る。ああ、鳥も居るな。
「でもやっぱり犬だよな」
「そうか? 私は飼うならドラゴンが良いと思うが。カッコいいし」
おいおい何言ってんだアリス。
「トカゲだぞ? しかも飛んでる」
「だがカッコいいだろ?」
「まあ、そうだな」
ドラゴンはカッコいい。ペットにするには良いかもな、ただし家具を燃やさなければだが。
俺にはこの子犬が合ってる。まだ子犬だから散歩はどうかと思ったが、元々は野生だし元気は良い。
ほら見ろ、今も他の犬とじゃれ合ってる。
「見てみろアリス。可愛いじゃないか、これのどこがウルフクイーンなんだ?」
「ああ、今は見えないな。上手くやってるものだ」
ま、いいか。
ひとまず今日は大通りを少しだけ往復するぐらいにしておこうかな。
ああ、今日もいい天気だ。
「それにしても昨日の夜はびっくりしたよな」
「お前が私のベッドに忍び込んでいたことか?」
「何を言ってる、あれはお前が酔っぱらって俺を抱き枕にして寝てたんだろうが! その前には口移しで無理やり酒を飲ませようとしてたよな? まったく、マザーの気持ちが分かったよ!」
「なに!? 失礼な奴め!」
おっと、ベッドで万力のように締め付けられていた時のことを思い出して少々取り乱してしまった。俺が言いたかったのはそんな事じゃない。
「そんなのじゃなくて、俺たちのレベルが突然爆上がりした事だよ!」
「ああ、何だその事か」
「多分あの時にムーが死んだんだろうが、おかげで俺はレベル333になった。お前も確か400ぐらいになったんだろ?」
「ああ、404だ。100くらい上がった。で、それが何なんだ?」
「別に、ただの会話だよ」
犬の散歩ってのは本来誰かと会話なんかしないものだ。だが隣に知ってる奴が居るのに黙って歩くなんて気まずいことは出来ない。
歩いていたらやがて冒険者ギルドが見えて来た。たった一週間しか経っていないのになんだかもう懐かしいな。
「お、おい何だ! 私はギルド支部長だぞ!」
「離して! 私が何をしたって言うのよ!」
ああ、なんとまあちょうどいい所に。一体どうしたんだろうなぁこの人たちは。
「おやおや、いつかのギルド長さんじゃないですか」
「何? 貴様誰だ! いや、私は貴様を知っているぞ! そうか、貴様の仕業か!」
「ふーん、何のことだか。行くぞアリス」
「ああ」
ただの犬の散歩かと思った? そんなわけ無いだろ。もし犬の散歩に行くならこんなクソッタレな施設の前なんかに来るかよ。
ああ、違ったな。クソッタレなのはこのギルド長とイカレ女だけだったか? まあどっちにしろこんなのを野放しにしておく組織なら一緒か。
「散歩は終わりだ。宿に戻る」
「もう良いのか?」
「ああ良い。もう十分だろ。な、クイーン?」
「く、くーん」
気付いてないわけ無いだろ。
さて、宿に帰って旅の準備をするぞー。今度は海鮮だ!
海鮮丼! 寿司! 煮つけなんかも良いな! あ~今からワクワクが止まらない!
その間のルートも色々と計画して決めないとな。確か途中に麺料理で有名な村があったっけ。それから……。
「アレン!」
「ん?」
「一週間ぶりね、アレン」
あぁ……。
ここにもクソッタレが居たか。
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