ぶらり旅、海中テーマパーク編

第38話 報酬と『いぬ』

「アレン君、初依頼でこんな事になってしまって本当にすまなかった」


 そう言って来たのはこのポティート領の領主で伯爵の地位を持つ俺の雇い主、エウガス様だ。

 その巨体を申し訳なさげに縮こませて誤ってくる姿は、まるで貴族のすることじゃない。それだけムーの存在はこの国にとって大きかったという事だろう。


 そう、俺は今すでに『ジーン』から『ポティート』へと返って来ていた。

 依頼の日数的に残り時間もそう無かったので、ジーンまで造っていた『高速道路ハイウェイ』をさらにポティートまで伸ばすようにして急いで帰ってきたのだ。


「それは仕方が無いですよ、誰もこんなことになるなんて知らなかったんですし。オリヴィエ様の予知だって今回は何も無かったんでしょう?」

「はい。申し訳ありませんアレン様。事前に分かっていれば……」

「いえいえ、いいんですよ、普通は分からないものなんですから。時々でも先に分かるオリヴィエ様が居て下さって俺はむしろラッキーです」

 

 そう言うとオリヴィエ様は俺に何か感激したような潤んだ眼を見せて来た。本音と建て前が半々ぐらいだったのでその視線が少々痛い。


「アレン君、それで報酬なんだがね」

「あ、はい。お酒はちゃんと運んでこれたので、確認が終わり次第お願いします」

「いや、その報酬も確かに払うのだが、そうではなくムーの件の報酬だ」

「その件でしたら先ほども言ったように予測不可能の事態だったんですから別に要りませんよ。もし報酬をという事でしたらアリスと隊長のバッケスさんにお願いします。実際ムーを倒したのは2人ですから」


 ムーの件の報酬をくれると言うのは有難いのだが、ここまで大ごとだと規模的に金銭で払われない可能性が高い。結果的に伝説の化け物を倒して領どころか国も救いましたなんて事になってるからな。


「もちろん2人や作戦に参加した騎士、兵士、冒険者、それから殉職者たちの家族にも報酬を渡す。アレン君にだけ渡さないなどという事は出来ないのだ」

「そうですか……」


 アリスや隊長は階級とか土地とかそう言う物になるんだろうか。だとしたら俺は階級は無いので土地? 土地とか管理できる気がしない。と言うかしたくない。そんなもん貰ったら最悪だ。


 こうなったら、こっちから提案して誘導するしかないか。そうだな……よし。


「報酬について俺から要望を言っても宜しいですか?」

「構わない。あまり無理なものでなければだが」

「でしたらまず1ヶ月ほど自由に動ける期間をいただきたいです」

「休暇という事かな? しかしそれは報酬にはならんだろ」

「いえ、まだ雇われたばかりで1ヶ月も休暇を下さいって無理言ってるんですから、報酬として受け取るぐらいが良いんですよ」


 それに本題はここからだ。

 これは元々全く予定してなかったんだが、実は今回のジーンから帰る途中で犬を拾って一緒に暮らす事になったのだ。宿はもちろんペット不可だからどこかに家を借りないととと思っていたので、ならば報酬としてもらってしまえばいい。


「それから家を一軒いただきたいです」

「ああ、それなら報酬としてふさわしいな。分かった、素晴らしいものを用意しよう」

「ありがとうございます」

「他には無いかね? 無いのであれば後は金銭で払わせてもらおうと思うが……」

「ここまででも十分ですが、いただけるのであれば有難いです」

「よし、では決まりだ。アレン君への報酬は『1ヶ月間の休暇』、『屋敷を一軒』、『金銭』の3つとする」

「ありがとうございます」


 これで今回の報酬の件についての話は終わりとなった。後は宿に戻っておやじさんとの件について話し合わないとな。


 あ、そうだ。あれの件について伯爵様に伝えるのを忘れていた。


「エウガス様、1つ伝え忘れていたことがありました。俺がここ『ポティート』から『ジーン』までの間に造った『高速道路ハイウェイ』についてです」

「おお、騎士たちの言っていたあれか。なんでもここから『ジーン』まで1時間ほどで着けるとか」

「はい、それです。但しあれを使うには俺の許可が要りまして、このカードを端末にかざす必要があるのです。皆さんで使っていただく分には全く構わないのですが、一般に公開していいか分からなかったのでこのような形になっています。ご要望とあれば許可カードを無しにして誰でも使えるようにしますが、いかがいたしましょうか」


 この件については俺としては誰でも使えるようにという方が得だ。何故ならあの『高速道路ハイウェイ』にはもう1つ後から気づいた機能があったからである。

 その機能と言うのは『利用者から微量の経験値を取得する』という物と、『誰かが利用した際にその移動距離分の道を作成した時と同等の経験値が俺に入る』という物だ、つまりこれがどういうことか分かるだろう?


「うむ、確かに大衆に容易に使われてしまうのは危険かもしれんな。

 よし、ではこうしよう。高速道路の入り口と出口にゲートを設けるのだ。カードを入り口で貸し出し出口で返却するようにすれば、誰が高速道路を使ったかもわかる。どうかなアレン君?」

「それは良い考えですね。よそから来た人はすぐに分かりますし、怪しい人間には貸し出さないようにも出来ますから」

「うむ、それから料金も取ろう。その収益の30%をゲートの騎士たちの給料とし、70%をアレン君に支払う。料金は市民が気軽に使えるように銀貨1枚ぐらいが妥当か」

「その辺はエウガス様にお任せしますよ。税金とかもあるでしょうし、俺は定期的に少しでもお金が入るなら助かりますしね」

「よし分かった。ではこの辺りは私の方で決めておこう」

「カードについては後程アリスか隊長さんに渡しておきます」


 そう言い残して今度こそ俺は領主の屋敷から出た。

 それにしてもやっぱりお偉いさんとの話は疲れる。報酬とか高速道路とか色々大事な話だったから来ているが、あまり長居はしたくないな。


「わん! わん!」

「ん? おー、いぬー! ちゃんといい子にして待ってたのか! 偉いぞ!」

「わん! はっはっはっはっは」


 屋敷の外に出ると、外で待たせていたペットのが俺に近寄って来た。こいつが俺たちがジーンからポティートへと帰る時に一緒について来た、俺がペットとして飼うだ。


「くーん、くーん」

「ははっ! 可愛いやつめ! ほれほれ」

「きゃっきゃっ!」

「おいアレン!」

「んー? おー、アリスか。どうした?」

「どうしたもこうしたもない!」


 何だよいきなり大声出して、外でいぬを見ててもらったのがそんなに気に入らなかったのか?


「そいつをよく見てみろ! そいつは私たちが『ジーン』で戦ったあのウルフクイーンだぞ!」


 ……は? 

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