第41話 いざ、海中テーマパークへ!

 ポティートから南に直線距離で400㎞。いくつかの山を迂回し、いくつかの町村を経由した先に、魚人と人間の共存する町『ランドシータウン』がある。


 この町では他の海沿いの町村と同じように、住民のほとんどが漁業で生計を立てているが、魚人と人間が協力して漁業にいそしむ姿はこの町ならではの光景だ。

 魚はもちろん美味く、特に海鮮丼は絶品なんだとか。


 だが、忘れてはならないのが彼らが故郷を模して作ったと言われている海中テーマパーク『シーアイランド』だ。

 このテーマパークは言った通り海中に存在していて、中は魚人の特殊な魔法によって巨大なエアボール空間となっている。なので大切な人との思い出作りの場所として国中の人間たちが集い、暑い夏の時期は特に賑わうのだという。

 

 『ランドシータウン』とは正に、食と遊びの宝庫なのだ。


 という事で、実に10日間を掛けてゆっくりとやって来ました『ランドシータウン』。

 今はシーズンではないのでそこまで観光客は居なさそうではあるが、それでも人が多くて活気のある町だ。

 特徴的で派手な海魔獣をあしらった町門のアーチは、この場所に一歩踏み込めば別世界が広がっていることを予感させてくれる。これだけでもうワクワクが止まらない。


「よーし、いぬ! 帰りを除いて残り2週間、俺たちでこの町を楽しみつくすぞ!」

「わん!」


 さっそく町門のアーチをくぐろうと一歩を踏み出す。

 ここからでも聞こえる波の音、懐かしい潮の香り。海鮮丼が俺たちを待っている!


「しかしコイツの名前、『いぬ』は無いんじゃないか? アレン」

「まったくじゃ。犬に『いぬ』と名付けるなど、バカの極みだわい」

「……」


 余計なのが居なければ、もっと楽しい気分だったんですけどねぇ。


「お前、何処まで付いて来る気なんだよアリス」

「お嬢様から聞いていなかったか? 私は昨日付けでお前の専属護衛騎士になったのだ」

「はあ!? 聞いてないぞそんなの! お前オリヴィエ様の専属だったんじゃないのかよ!」

「まあそうだが、お嬢様には他の騎士も居るし、何よりお嬢様直々に私をお前に付けると言っておられたのだ。何だお前、それともそんなに私が嫌なのか?」

「いや、別に嫌とかでは無いけど……」


 嫌な聞き方してくるなこいつ。そんな風に言われたら何も言えないだろうが。

 まあいい、じゃあもう一つ気になってたことを聞くか。


「じゃあそっちのご老人は誰なんだ?」

「ああ、このジジイは一応私の師匠だ」

「なっ! アリス! ジジイとは何だ、ジジイとは!」

「師匠? へー」

「お前はもっと関心を持て小僧!」


 うるさい爺さんだなぁ。何かこっちの方に用事があるのかと思って一緒に連れて来てやったけど、まさかこの爺さんがアリスの師匠だったとは。普通にアリスがこの爺さんの護衛かなんかしてんのかと思ってた。

 貴族には見えないから態度も改めなかったし、面倒そうだからここまで無視してたけど。


 で、なんでこんな爺さんが一緒について来たんだ? まさかテーマパークで遊びに来たわけでもあるまいし。


「お主、アレンと言ったか?」

「ああ、そうだけど。あなたは?」

「ワシはかつて東の地にて武の達人と言われた男、名を『テンケン』という」

「そうですか。ではテンケンさん、なんで俺たちと一緒にこの町へ? 美味い飯が食いたかったとか?」

「ふん、何を馬鹿なことを」


 む、爺さんの雰囲気が変わった。

 さっき武の達人とか言ってたし、もしかしてここには修行に? アリスの師匠なら自分が強くなることに対してもそれなりに貪欲だろうし、あり得るな。


 このジジイをよく見てみれば確かに佇まいと言うか所作が綺麗だ。何処から襲われても対処出来るという余裕も感じる気がする。


「ピッチピチのお姉ちゃんの水着姿を見に来たに決まっておろうが!」


 ただの変態ジジイかよ!


 このジジイがアリスの師匠? 何かの間違いだろ。こんなもんが師匠じゃアリスも……。


「あー、納得」


 なるほど、このジジイはアリスのあっち系に対する興味関心の無さを見て師匠になったわけだ。アリスは見た目だけならスーパーモデル並みだからな。それが異性に何を見られようと触られようと興味ないみたいな性格してるもんだから、近づいたんだろう。変態だし。


「何を納得しておる! 言っておくが、お主の考えていることは断じて違うぞ! お主もこやつと一緒に行動しておって見たであろう、あの凄まじい剣技の数々を!」

「そう言うってことは、アリスのあの技はあんたから教わったってことか?」

「いかにも。だがそれだけではない。体の使い方、刀の振り方、その技を出すために必要な全てをワシがアリスに叩き込んだ!」


 ホントかよ? とアリスを見る。


「ああ、本当だ。手取り足取り教えていただいた」


 ああー、手取り足取りね。


「やっぱ変態のエロジジイじゃん」

「なんじゃと! 失礼な小僧め! よいか、エロとはパワーなのだ! ワシが生まれた東の国ではかつてエロによって国を救った英雄がおって……」


 よし、さっそく海中テーマパークに行くか! 確かペットもOKだったはずだからいぬも一緒に行けるし、海鮮丼も中で食えるらしいからな!


「アリスはどうする? 一緒に行くか?」

「……行く!」

「よし、じゃあ行くぞ! いざ、海中テーマパークへ!」

「「おーっ!」」

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