第21話 一刀流・居合 /爆剣 昇竜炎舞(アリス視点)
洞窟に入ると中には異様な空気が立ち込めていた。この独特な臭さは町でよく見る野良犬の臭いに近いが、それとは別の生臭さもある気がする。
ゴツゴツとした岩肌の壁には爪でひっかいたような跡が所狭しと刻まれていて、一部には血がベッタリついて乾いた跡もあるようだ。
暗い洞窟内を照らす為にルヴィク殿が持って来ていた松明に火を灯すと、それはいっそう私たちの目に飛び込んで来る。天井付近まで付けられた爪痕、これが奴らの習性なのだろうか。まるで狼じゃなくて猫だな。
奥へ奥へと進めども、外でアイツが戦っている音とウルフマンの悲鳴が洞窟内に反響して響き渡ってくる。なかなか順調に戦えているようで悲鳴が途切れることが無い。
今のところ洞窟内では1匹のウルフマンも見かけていないので、アイツの作戦はひとまず成功と言ったところか。
「本当に良かったのでしょうか、お1人にしてしまって」
「さあな、だがまあ大丈夫だろう。アイツは簡単に死ぬようなやつには思えんからな。それよりルヴィク殿はこの洞窟には詳しいのか?」
「詳しいと言うか、前に一度入ったことはあります。ですが随分前の事なので、今はどうなっているか……」
「そうか、では地道に探すしかないな」
ルヴィク殿によればこの洞窟はほぼ1本道で、途中で右にそれる道が1つあるのみらしい。そうなれば別れて探したいところだが生憎と松明は一本しかない。
幸い依然来た時はこの洞窟はそこまで深くなかったとの事だったので、一度まっすぐ進み、その後に右の道を探索することにした。
逸る気持ちを何とか抑えて若干の早歩きで進んで行くと、やがて目の前に大きな黒い檻が見えて来た。中には少女が1人だけ横たわっている。
「1人だけですか……」
「おい! しっかりしろ! 助けに来たぞ!」
そう声をかけてみるが中の少女はピクリとも動かない。数日間も飲まず食わずで弱っているのだ。早く助け出してやらないと!
檻の出入り口をみるとそこには立派な錠前が掛かっていた。私はその錠前を剣で叩き切ると、急いで少女に近寄り抱き寄せる。
良かった。まだ息はあるようだ。
「ルヴィク殿、他に子供の姿は?」
「残念ながら見当たりません。もしかしたらもう1つの道の方かも」
「きっとそうに違いない。急ぐぞ!」
残りは2人、もし途中で見た右側の道の先に居なければ、その2人はもう食われた後という事になってしまう。さっきの場所には人間の骨や服は見当たらなかったので、何とかまだ生きていると信じたい。
ぐったりした少女を抱えながらもう1つの道へと入って行く。この道は先ほどの檻のあった道より短いらしいので、生きていればすぐに見つかるはずだ。
「誰かいるか!」
「グルルルルァァァッ!」
「危ないッ!」
通路の先からウルフマンが1匹飛び出して来た。とっさに剣を抜こうとしたが、腕に少女を抱えていて何も出来ない。
ルヴィク殿の言葉で咄嗟に身をかわすと飛び込んで来たウルフマンはそのまま私たちを通り過ぎ、松明を持ったルヴィク殿に向かって行く。
ルヴィク殿は持っていた松明を投げつけ、直後に背中の大ナタを引き抜きウルフマンの首めがけて横に一閃。見事に首と胴を切り離した。
「お見事!」
「お見事ではありませんよ! 焦るのは分かりますが1人で先に行かないでください!」
「すまない。私が先頭を歩くからこの子を頼む、松明は私が持つ」
「あ、ちょっと!」
さっきここを通った時に音や声で気づいていた筈なのに、何故このウルフマンは飛び出してこなかった? もしかして今のやつは見張りでまだ子供たちは生きているのではないか?
今度は呼びかけず慎重に気配を探りながら歩いて行く。すると奥の方に何かがチラリと動くのが見えた。またウルフマンかと思ったがそれにしては襲ってこない。という事は……。
「おい、助けに来たぞ! 誰かいるか!」
「……たすけて」
「っ! 今助ける、そこにじっとしていろ!」
生きていた! 子供たちは生きていたんだ!
「良かった! 生きていたか!」
「ルヴィクおじちゃん?」
「ああ、ルヴィクおじちゃんだぞ! もう大丈夫だ!」
見たところ子供たちの内2人は比較的動けるようで、ルヴィク殿に抱き着いて泣いている。だがもう1人は意識はあるようだが衰弱していて動けないようだ。
ん? もう1人? ちょっと待て、子供は3人のはずじゃなかったのか? ここには4人居るぞ。
「ルヴィク殿、この3人が行方不明になっていた子供たちか?」
「はいそうです! 本当に無事でよかった」
「では、今ルヴィク殿が抱えている子供は?」
「それについてなのですが、ここを出てからお話させてください。少し気になることがあるので」
「分かった。では私がこの子を抱えて先導する。敵に見つからないように気を付けろよ」
何が何だかさっぱりだが、とにかく今は子供たちの安全の確保が先だ。
後ろをついて来る子供に合わせてゆっくり慎重に出口へと向かって行く。耳を澄まさずともまだ戦闘音が聞こえることから、アイツはちゃんと囮役を続けてくれているらしい。
出口が近くなるにつれて外から血の臭いが漂ってくる。ずっと暗い場所に居て目が慣れないが、近くにはウルフマンの死体が転がっているのがチラリと見えた。
「凄い、ウルフマンたちが全滅している。けどウルフウーマンは倒せていないようですね。それに彼はもう傷だらけで今にも倒れそうですよ」
「……」
アイツはスキルを使って高速で動きながらウルフウーマンを切りつけている。しかし全くとは言わないがほとんど効いていないようで、その巨大な腕を振るわれて弾き飛ばされてしまった。
「ルヴィク殿、この子たちを頼めるか。私はアイツを助けに行ってくる」
「はい、大丈夫ですが、私が行った方が良いのでは?」
「いや、ここは私に任せてくれ」
持っていた松明を洞窟の奥に投げ捨て、抱えていた子供をルヴィク殿に渡す。そして勢いよく駆け出すと、今にもアレンを引き裂こうとしていた爪を刀で受け止めた。
「ボロボロだな、ずいぶんと苦戦しているではないか」
「こいつからの攻撃は一発もくらってねぇよ。逃げ回ってる時に他の奴らにチクチクやられただけだ。見た目ほど悪くはない」
「そうか、苦しそうに見えたので加勢に来たが、余計なお世話だったかな」
「うるせぇ、助かったよ。それで子供たちは?」
「全員無事だ」
「そうか、良かった。それじゃあすぐ逃げないとな。っとと」
そう言って足を動かそうとするアレン、だが思うように体が動かない様でこけそうになっている。
これじゃあスキルを使って逃げるのも難しいだろう。普段意識はしてないだろうがスキルを使うのにも精神力が要るからな。
「仕方ない、お前はそこで見ていろ。私がコイツを始末する」
「は? 何を言ってやがる。作戦通り逃げれば済むだろ」
「いいから見ていろ」
そう言ってウルフウーマンの前に立つと、私は刀を腰の鞘に収めた。
まったく期待していなかったが、アレンはここまで頑張ったのだ。ならば最後の始末ぐらい私が引き受けてやる。
「ふー」
精神集中。目標は目の前のウルフウーマン。
今にも飛び掛かってきそうなそいつを睨みつけ、深く腰を落として右手を柄に添える。
「グルルルァァァアアアアッ!!」
「地を這う犬如きが龍に敵うものか。一刀流・居合/爆剣 ――
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