第20話 アレンの弱点
あの化け物はなんだ? 明らかに周りのウルフマンとは違うその姿は、しかし確かにオオカミらしい特徴も備えていて妙な気持ち悪さを感じる。
圧倒的とまではいかないが、何か常にこちらに対して圧力がかかっているような感覚がするのは目の前のあいつのせいなのだろうか。
もしこの巣の中に子供達が捕まっているとすれば、居るのは最深部になるだろう。という事は目の前の化け物は倒すか巣から引き離すかしなければならない。今の俺にあれを倒せるだろうか。
「マズいですね。まさかとは思いましたが、こんな時期にウルフウーマンが発生しているとは」
「ウルフウーマン? あの化け物の事か?」
「そうです。ウルフマンが
それはそうだろう、デカけりゃその分強いに決まってるからな。それにあの巨体じゃ多少切られたところで大したダメージにはならないだろう。
肉を裂き骨を断つことが出来ても、それが致命傷にならなければ殺されるのはこっちの方だ。
そして一番の問題は今回が洞窟戦だという事、これが俺にとって非常に良くない。
俺のスキル『ロード』には『動く歩道』というスキルレベル2で手に入れた能力があるが、これまではこの能力で出したスピードに乗ることで素人ながら敵を切り倒して来た。
剣なんて使った事が無かった俺が的確に敵を切れるのは、ただ一定の場所に構えて『動く歩道』で移動していたからにすぎない。
つまり何が言いたいかというと、狭い洞窟の中では『動く歩道』は使えないよピンチ! という事だ。
洞窟自体はあの化け物が入れるくらいには大きいので広そうに思えるかもしれないが、ここから見た限りでも分かる通り、中にはウルフマンたちがうじゃうじゃ居ることが予想できる。
こんな状態では邪魔なものを排除する機能を使っても、脇に寄せられるだけなので結局戻って来てしまって意味が無い。進むだけなら進めるかもしれないが、その後は嬲り殺しにされてしまうだろう。
「あれは……、あれがあるという事は、今ならまだ子供たちは生きているかもしれませんね」
「なに? どういう事だ」
「あのウルフウーマンのお腹を見てください。紋章が浮かび上がっているでしょう? あれはあのウルフウーマンがもうすぐ出産するという兆候なんです」
「それが子供が生きていることと何の関係がある?」
「ウルフマンたちの社会ではウルフウーマンがトップなんです。つまり獲物を一番最初に食べるのはウルフウーマンになります。ですが、今のウルフウーマンは出産を控えているので、紋章が出て約1週間の間は何も食べないはず。つまり攫われた子供たちは出産後の体力回復の為にまだ生かされている可能性があるんです。次の子作りの事もありますからね」
という事は今なら子供達を救出できるという事か。
「後どれぐらい猶予があると思う?」
「正確には分かりませんが、おそらく今日か明日には出産してしまうと思います。出産直前に一度こうして外に出て来るのはウルフウーマンの習性ですから」
「時間が無いではないか! 私は行くぞ!」
「待て! 1人で言っても死ぬだけだ!」
「ではどうするというのだ!」
「安心しろ、作戦はある」
急遽考えた簡単なものなので作戦と言えるか微妙だが、一応内容はこうだ。
俺が今からあのデカぶつを強襲する。そうするとリーダーを守るために洞窟内からウルフマンがわんさか出てくるはずなので、その間に2人には洞窟に潜入してもらい、子供達を助け出してもらう。
後は機を見計らって俺のスキルで逃げる。
口に出すのは簡単だが、俺ではあのウルフウーマンにはたぶん勝てないので、この作戦はどれだけ素早く子供を救出するかにかかっている。
「貴様、それで大丈夫なのか?」
「なんだ? 俺の事を心配してくれるなんて意外と良いところあるじゃないか。安心しろ、逃げ回るのは得意中の得意だ。ウルフマンたちを減らしながら、なんとか凌いでみせるさ」
「そうか……、では早速作戦を開始するぞ」
「ああ」
しかし参った。レベルが簡単に上がるのは良いが、戦う時に決定打が無いんじゃいくらレベルが上でも勝てない。
例えば今はレベルは202だが、能力値の上昇は確かにあるのは分かるものの、スーパーパワーを持った超人のようになれているかと言えばそうでもないのが現状だ。
噂ではレベルが500に到達するとそこからは今までのレベルアップが何だったのかというぐらい異常な成長をすると聞くが、今のところは時速50kmの車に追突されて死なないとか、パンチで石壁を砕ける程度だ。
世界を旅するならこういう事は今後もあるだろうし、何か戦い方を考えとかないとな。
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