第9話 運命の出会い?(オリヴィエ視点)
ポティート伯爵領にはいくつかお花の名産地がありまして、私はお花に目がないものですから、いつも自分で買い付けに行っておりました。
今日は月に1度のお買い物の日。そして年に必ずこの日だけは買い付けに行かなくてはならない。そんな日でした。
ですがその帰り、私たちは盗賊の襲撃にあってしまいまったのです。
騎士は不意を突かれ、馬車は横倒しに倒され、私以外だれも意識が無いそんな状況。
騎士達が悪いのではありません。私は人と話すのが大好きで、護衛中の騎士達にも積極的に話をしていました。そのせいで騎士たちの注意力が落ちてしまいこんな事になったのです。
そして気絶した侍女を残して馬車から引きずり出された私は、まるでゴブリンの腰布のような汚い服を着た盗賊たちに今にも犯されようとしていました。
絶望に打ちひしがれ、生きることを諦めようとしていたその時。
「オイお前ら」
あの方が私の前に現れたのです。
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7歳の頃に教会で受けたスキル授与の儀式。
『水無月の7の日。初夏の風吹く陽の明かりの下で運命と出会うであろう』
初めは私が授かったスキル『予知者』の能力が意図せずに発動したのかと思っていました。ですが成長するにしたがってスキルの使い方を知り、あれが『予知者』のスキルとは関係ない物だという事が分かるにつれて、私は考えるようになりました。もしかしたらあの声は天におられる神様のお告げだったのではないかと。
その事に気付いた時から毎年、私は6月7日になると町の外に買い付けという名目で出かけるようになりました。運命の人と出会うために。
次々に盗賊たちを倒していく彼。私たちの命を救い、今日この日に現れた彼が運命の人でなくて何でしょうか。
騎士たちを全員一か所に並べて馬車の中から侍女を丁寧に運ぶと、彼は馬車に手を掛けて持ち上げました。そこで私は彼が先ほど言っていた言葉を思い出します。『俺はこの道を通りたいから消えろ』そう言っていた言葉通りに邪魔ものが片付いた今、このまま行ってしまうのでは。そう思ったら口から勝手に声が出ていました。
「あの……」
「ん?」
話をしてみれば、とても平民とは思えない丁寧な口調。
不安が無いようにと優しく微笑んでくださるその心遣い。
そして、アレンと名乗ってくださった彼は当然のように傷ついた騎士たちの事を考え、真剣な表情で私に騎士たちを助けるための提案をしてくださいました。
それはアレン様の村で助かる確率の低い治療をするか、スキルを使って町に戻り医者に見せるかという2択。
普通、貴族と言えど初対面の人間にはスキルの事を知られたくないものです。特に希少であれば尚更。アレン様はそれを簡単に私に教えて下さり、それによって騎士たちを助けられる選択肢を、町で治療するという選択肢を与えて下さいました。
つまり、実質アレン様は最初から騎士たちが最も助かる選択肢を選ばせてくれていたのです。
「アレン様。凄いスピードでございますね!」
「ええ、ざっと馬車の4倍ぐらいの速さですからね。それゆえに落ちると危ないので、あまり身を乗り出して外を見ようとしないでください」
「はい!」
アレン様は驚くべき速度で馬車を引き、私の町まで向かって行きます。いつも馬車で見る窓の外の景色はゆったりしたもので、それも嫌いではありませんでしたが、これはまるで景色を置き去りにしていくよう。風がとても気持ちいいです。
「もうこんな所に。それに馬車が全く揺れませんわ!」
「スキルで道を作りながら進んでるんです。出来るだけ平にしてますから馬車の揺れが少ないんですよ」
やっぱりこの方は運命のお方ですわ、こんなに凄いスキルを持っていらっしゃるなんて。
それに騎士たちのためにあんなに一生懸命に馬車を引いてくださって……。
私の町には今、大きな問題が一つあります。けれど、もしかするとこの方ならその問題を解決できるかもしれません。あの時の声が言う『運命』、それが私たちの町を救うための救世主が現れるという事なら、この方に出会えたことを神に感謝しなければ。
「それより、騎士の皆さんの様子はどうです? 鎧は脱がせて手当をしましたが、傷が開いたりはしてませんか?」
「え、は、はい! 今のところ傷は開いてないようです。息遣いも苦しそうではありますがしっかりしています」
「そうですか、それは良かったです。もう少しスピード上げますね」
「お願いします!」
いけない、今は騎士たちの事を一番に考えないと。
仕える者たちの事を考える事ができない貴族は本物の貴族とは言えない。私はあの
「みんな、頑張って! 今アレン様が必死に馬車を引いてくれています。もう少しで町に着きますからね!」
「そうだぞ! 今俺が必死に馬車を引いてる。町に着いたら死んでました、なんてことになるんじゃないぞ!」
……え? 今アレン様の声が近くから聞こえたような気が。
「アレン様どうして馬車の中に!?」
「あ、ちょっと疲れたんで休憩に」
「ええっ!? そ、それじゃあ馬車は!?」
「馬車はちゃんと動いてますから大丈夫ですよ。これ別に俺が止まってても動くんで」
「じゃあさっき頑張って走っていたのは何だったんですか?」
「それはあれです。その方が恰好がつくかなって」
「えぇ……」
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