第10話 美味い町、ポティート

 あれから1時間、俺たちは無事に目的地であるポティートの町に到着していた。

 思ったより30分も早く到着してしまったのは少々驚いたが、早く着くに越したことはない。


「先生、どうでしょうか?」

「ご心配いりませんよ、オリヴィエ様。騎士の方々は皆命に別状はありません。もう少し遅かったら危なかったですが、適切な応急処置もあったので何とか間に合いました」

「そうですか。良かった……」


 病院に直行してすぐに先生に診てもらったところ、騎士達は何とか一命をとりとめたようだった。

 一応念のためにと薬師の婆様に教わっていた薬草での応急処置をしておいて良かった。鎧も出来るだけ重量を減らしてスピードを上げようと捨てて来たのが良い方に働いたらしい。


 何にせよこれで俺の役目も終わりだ。スキルを使うのには慣れているが、これだけ神経を尖らせて使ったのは初めてだったのでくたくたになってしまった。早めに宿を取ってゆっくり寝て明日から冒険者ギルドに行くことにしよう。


「それではオリヴィエ様、俺はこれで失礼します」

「え? あ、ちょっと待ってくださ……」


 オリヴィエ様が何か言っていたようだったが、今の俺の耳には届いていなかった。 

 これ以上はちょっと限界だ。早く寝たい。


 俺はフラフラとした足取りで宿屋を探し回り、大通りから少し入った所にある良い雰囲気の宿屋で部屋を取り、その日はそのまま眠った。

 ちなみに宿代は銀貨3枚。日本円で言えば3千円ぐらいだ。この世界じゃちょっと高めかな。


 昼の11時に眠って10時間後、だいたい夜の21時頃に俺は目を覚ました。

 昼も夜もご飯を食べていないので物凄くお腹が空いている。ぐーぐーとなる腹を抑えながら一階の食堂に降りてみたが、流石にこの時間はやっていないらしく、ろうそくの火が消えていた。


「おやじさん、食堂って今の時間はやってないの?」

「やってるわけねえだろ、今何時だと思ってんだ。腹が減ってんならその辺ぶらぶらしてきな。夜中だけやってる屋台があるからそこでなら食えるぞ」

「そうするよ。じゃあちょっと行ってきます」

「おう、兄ちゃん雑魚そうだからカモにされるかもしんねぇからな、気をつけて行ってこいよ」

「はーい」


 最初から打ち解けすぎじゃないかって? 実はこの宿のおやじさんとは以前からの知り合いだったのだ。入ったのは偶然だったけどな。

 時々うちの村に来て薬師の婆様の所に行ってたから、婆様の息子とかかもしれない。詳しくは別に知りたくないから聞かないけど。


「さてと、どんな屋台があるかね。おっ、串焼きか!」


 この町は流石にデカいだけあって夜でも活気がある。それに夜しか出ない屋台というのがまた珍しいらしく、国中から酒好きが集まってくるのだとか。

 

 俺が見つけたのはまさにそんな酒好きが集まる屋台、串焼きの店だった。

 美味しそうな肉の焼ける香りとソースの輝きが食欲をそそりまくる。


「いらっしゃい! 何にします?」

「おじさん、この肉何の肉なの?」

「こいつかい? こいつはブタだよ。森によく出る2本足で歩いてるブタさ」

「ブタ? ああ、オークか!」


 この世界、ファンタジーなだけあってゴブリンもオークも居るが、ゴブリンはともかくオークは全く想像とは掛け離れている。

 2本足で歩くところはそのままなのだが、体はぷよぷよに太っていて背は小さく、全然強くない。

 人間の女も襲わないし、それどころか人間の女に盛んに狙われて逃げてく始末だ。

 まあ、無害で美味いなら世のたくましいお母さんたちに狙われるのは当然かもな。うちの母さんもたまに仕留めて来てたし。


「それ5本くれる?」

「まいど!」


 おじさんから、タレ3本、塩2本の串焼きを買って近くのテーブルで頬張る。


「ん~~~」


 美味い! 美味すぎる! この世界に来てあまり食には満足していなかったが、このオーク肉だけは絶品だ。

 うちの村は内陸部にあって魚介の類は全く見たことが無いので、冒険者になれたら海の方に行ってみるのもありかも知れない。何より俺はスキル的に遠くまで行けた方が良いしな。


「おう坊主! ここの串はうめぇだろ!」

「はい! 特にタレが絶品です! 塩はよく食べてましたけど、これ食べたら塩が食べれなくなっちゃいますよ!」

「はっはー! そうだろ、そうだろ! だがな坊主。お前はまだ本当の美味さを知らない!」

「本当の美味さ!?」

「おうともよ! だまされたと思ってこのタレの串と塩の串を重ねて食ってみな」


  隣の酔っぱらいのおじさんに言われてタレと塩の串を重ねて食べる。すると、何とも言えない旨味の爆発が口の中いっぱいに広がった。


「っ~~!!! っ~~~!!!」

「美味すぎて声も出ねえか! あっはははは!」


 美味すぎる、本当に美味すぎる! いくらでも食べれそうだ!


「むっ」

「ははは、食べすぎるとな、口の中がもたついてそのうち入らなくなるんだよ。でだ、ここで出ますのがこの芋! こいつがまた口の中をサッパリ戻してくれんだなぁコレが!」

「おおっ! どれどれ、あむっ。うまっ!!」


 こうして俺は夜が明けるまでおじさんたちと語り合った。この一件で俺のポティートの町への印象がどうなったかは、もうお分かりの事だろう。


 本当に『美味い』町だ! 最高!

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